12月後半から、路肩に雪が残るようなコンディションがずっと続いている石川県。峠を主戦場とする脳筋枠のザラブ嬢(ストリートトリプルRS)はトリクル充電器繋いで冬眠中です。

このバイクを語る上で、避けて通れないのがやっぱスピードですよね。まぁとにかく速いんですよ。このバイクは。このバイクの速さの源は加速力じゃなく、どっちかというと減速力の方にある。加速力を真に生かすには加速力に応じた減速力が求められるんですが、このバイクにはそれがある。

減速で大事になるのは「運動エネルギーの総量を左右する車重の軽さ」とブレーキという「運動エネルギー熱変換装置」の性能です。でも残念ながらバイクってカタログ上でパワーとトルクをアピールしまくっても、ブレーキ性能ってほぼ書かれてないんですよね。

加速力はバカみたいにあるけど、減速方向にはヘタレてるバイクってこの世に結構あるんです。加速する分には開けるだけで技術いらないけど、減速は技術がいりますから。昔はABSがなく、絶対制動力が高いブレーキはカックンブレーキになることが多かったから、ブレーキを強力にするほど、慣れない人はちょっとしたパニックで握りゴケしちゃったんですよね。減速できないバイクはリスキーですが、ブレーキ効かせすぎるのもリスキーだねって状態だったんです。クルーザーってそこを甘くしてて、私のダイナは「止まんないのが味」ってくらいノーマルは止まらない(これでも昔に比べたらすごく止まる)し、ゴールドウィングは短距離で強烈に止まるのではなく、「姿勢を維持したまま確実に速度を殺す」って方向性に振ってる。上体起きたライディングポジションに強烈な減速Gはミスマッチだし、バイクのコンセプトともあわない。乗り手やバイクの性格を考えながらブレーキシステムは作り込まれてるんです。

それではザラブ嬢のブレーキシステムはどうか?っていうとこれがまた容赦ない。乗り手への配慮より絶対制動力が重視されてる。ちょっと本気でブレーキレバー引くと、「げぇえぇぇえぇええ・・体支えるのしんどいぃぃい・・50代にこれは厳しいぃぃいい!!」ってほどの減速Gを発揮する。ハンドル位置も高いから、前にブッ飛びそうになる体を何回も支えてると手のひらに体重かかりすぎてとても痛くなる。ビビリミッターじゃなくってシンドイリミッターがかかっちゃうんですね。それもそのはず、装備重量188㎏ですよ。荷掛フックすら削ったシャーシは信じられないような軽さを実現しています。

そこもってきて、ショーワのBPFにブレンボM50とスパコルV3という「オィィィイイ!!こんなの市販バイクで奢っちゃってどうすんの?なにこれ?ボクチンに何求めてんの?!」っていうスーパー豪華な組み合わせ。装備の煽りスキルが高すぎ。まるで「始まりの村の武器屋でロト装備一式を売ってる」みたいな感じですからね。「レベル1からはじめる俺無双」ってラノベの題みたいになっちゃってますよ。もうね。こちらの能力値が足りてなくても、バイクが否応なしに引っ張ってくんで、真剣に走るとオジサンはホント体がシンドイです。

旋回力だって、動きが繊細なサスにスパコル履いて、コンパクトなエンジン前に寄せて、ホイールベース詰めて、スイングアーム伸ばして、足つき犠牲にしてあれだけケツ上げてるんですから、それはそれはパタパタ寝るんですよ。加速、減速、旋回力、どれをとってもレベル高いから、トータルでバチクソ速い。軽量化と車体設計と良いパーツで得られた運動性ってホント隙がないんですよね。

で、私はこのバイクに乗る度にシミジミ思うんですけど。このバイクで道中ずっとゆっくり走り続けることってどだい無理じゃないかと。こんなこというと「これだから走り屋はモラルがない」なんて言われちゃいそうだけど、このバイクをガレージから引っ張り出して、一度も能力を発揮させないままガレージに帰ってくるって、もの凄い精神力ですよ。

セクシーポーズ
(ザラブ嬢でアクセル開けないって、私にとってはこのイラストみたいな感じなんですよね。めっちゃ誘ってきてるのに据え膳食わずにずっと我慢状態。こんなのバイク乗りとして男が廃らないの?って葛藤がありますよね。)

この世には道路交通法というものがあるから、大型バイクでアクセル開け続るような奴は罪人であることは間違いありません。我々は法律を守らなきゃならない。でも、その一方でバイクにだって適正速度や、想定された乗り方ってのがあるわけで、「バイクに求められるまま乗ったらどう考えても罪人になっちゃいます」って場合はどうすりゃ良いのか?自制心っていっても、限度ってもんがありますからね。

雑誌にはよく「飛ばしたいならサーキットいきましょう。」って書いてある。確かにフルに性能を引き出し、リスクを最小にしようとすればサーキット路面しかないと思う。「公道で無茶しちゃメッでしょ」っていう指摘はホントごもっとも。でもね。ちょっとしたスポーツ走行でサーキット行けなんて言われても、田舎にはそんなもんはないし、「跨がってアクセル開けるだけでいつでもどこでも楽しめる」っていうバイクの良さが消えちゃいます。

実際ストリートトリプルRSはそこそこ売れてるみたいだけど、皆サーキットで走ってんの?っていうと違いますよね?じゃあみんな飛ばしてないの?そんなわけないよね?ってことですよね。

人は悲しいほど欲望に弱い生き物です。皆が聖人のように我慢がきくのならアダルト動画や風俗、不倫なんてこの世には存在してないはずなんですよ。私から見りゃSSとか、そこからカウルをはぐっただけのストリートファイターは、人のスピードへの渇望を溶かして固めた「悪の華」です。

「でも、それを良しとしたら、事故がなくならないじゃん、ケガ人出るじゃん」っていう意見がある。レーサーに近い性能のバイクを公道用として売ってる限り、それなりの数のケガ人や死者は当たり前のように出るに決まってる。私だって両手首一回ずつ、鎖骨1回で計3回折ってるし。昔っからバイクの犠牲者は絶え間なく出続けてるんですよ。

100馬力超える二輪車に身一つで乗れば、どれほどのリスクがあるのかなんて、敢えて説明しなくたって子供だってわかる。それでもなお乗りたいから大枚はたいて乗ってるわけで、それによって生じる結果はバイク乗りとメーカーの暗黙の了解の中にある。

雑誌だって建前では順法精神を表に出してますけど、テストライドで公道ウィリーなんかカマしちゃってるから大概です。公道で意図的にやるウィリーって危険行為ですからね。完全なる安全運転義務違反。違反行為の写真を載せて、「制限速度を守りましょう」なんて言われても、「ハハハ、ぬかしよる。」「冗談キツイって」「それギャグでしょ!?」ってことですよ。メディアからしてこうなんだから、この世でバイクほど建前と本音が乖離している乗り物はないんです。

ここで勘違いして欲しくないのは、私は別にハメ外してることを非難してるんじゃないんです。法定速度なんて建前なんだから、違法行為やりながら正論を説くのは二枚舌だ!なんて堅いことも言うつもりもない。私の言いたいのは、「現実的じゃない四角四面の正論は空虚でまったく意味がない」ってことなんです。

私って、ダークで黒いものは別に嫌いじゃないんですよ。黒いものって毒なんですけれども、「あんた毒でしょ?」っていえば「そうだね」って返ってくる。毒だっていう自覚がある。一番始末に負えないのは、自分が真っ白だと思い込んでいる人。これは猛毒です。こういう人が議論に入ってくると、正しさという毒がそこら中に散布され、皆が中毒状態になって結論がおかしくなるおそれがある。私がアニメや特撮の正義しか信用してないのは、現実に語られる正義は大概世の中をおかしくしてるからです。悪の方がまだ融通が利く。だって正義マンは「行きすぎた正しさは毒なのだ」ってことをなかなか理解してくれないから。

人の命を盾に「ゼロコロナ」を言い続けてる人なんてその典型ですよ。「あなたはコロナディストピアを作ろうとしてるの?」って言いたくなる。ゼロコロナってウィルスからしてみれば「お前達をこの世から全て消してやる」っていう絶滅主義者、ジェノサイダーですよね。彼らの頭の中ではウィルスは自然界の一部ではなく、撲滅すべき絶対悪なんですよ。でもね。戦隊モノの敵以外に絶対悪なんていないでしょ?折り合い点としては誰が見ても極端すぎるし、実現過程でもコストがかかり過ぎる。経営者でそんなこと言う人はおそらくすぐ会社潰しちゃうと思う。

私は薄汚れた人間なんで、この世は混色で濁ってた方が都合が良いし居心地が良いんです。私がバイクを好きなのも、バイクが世の正論にまったく馴染まない非常にバカげた乗り物だからだと思う。バカッ速のバイクなんて存在意義を突き詰めてくと論理破綻しかない。でもね。乗るとその瞬間に理解できる。

咲き誇る「悪の華」の素晴らしさが。

快楽すらバーチャルになりつつある世の中で、バイクの馬鹿げたキレ味は、あまりにも暴力的でリアルで鮮烈です。何が起こるかもわかんないし、そこに意味なんて一つもないし、得られるものもありません。でも跨がってアクセルをぐわんと開けるだけで、自分が住んでる世界のモヤモヤした霧が一気に晴れて、全身が泡立つ。しかもそれが実に簡単に得られるんです。そんなものはこの世にもうバイクとご禁制のお薬以外は存在しないんじゃないかと思う。

なんでスーパースポーツが200馬力を目指すのか?それは純度が高いものほど陶酔度と興奮度が高いからです。200馬力のバイクには現実離れした、常識を突き抜けた危うさがありますが、それはもはや実用性を離れ、イカレっぷりを競う世界になってるんですね。だから、リッターSSともなると、足がつかなかろうが股が燃えようが、そんなのはどうでもいい。それは純度を高めた結果生じた小さな副産物に過ぎないんです。

ストリートトリプルRSはお利口さんの買うバイクではありません。その速さはどう考えても馬鹿げてる。でも、それをひたすら誤魔化して綺麗に見せてるってことは一切ない。この歳になると、この世の中に溢れる矛盾とゴマカシがよく見えるようになるんですが、馬鹿げたスピードを許容しつつ、安全性を語る自動車達に比べれば、速さ=リスクという図式が明確なバイクはとってもリアルで正直ですよ。

バイクに乗ると「スピードに対して、こんなバカ正直なものがまだこの世に残ってる」っていうことに、なぜか嬉しくなってしまうんですよね。




おまけマンガ「損耗廻戦0」

呪術廻戦パロディ
(あまりにも有名な乙骨憂太の決め台詞。私も映画見てきましたが、原作が映画の尺にぴったりなので、まとまりがとても良かった。KingGnuの主題歌「逆夢」も良い味出してましたね。)