今回は前回のブログの後編。「明宝の惨劇」の被害報告です。私のブログはいつも前置きの尺がクッソ長いんですが、今回は最初に結論を言っちゃいますね。

それではゴールドウィング所有通算8年目にして初の屈辱となった「明宝の惨劇」、その被害額をお伝え致します!!被害額はぁ!!!なんとぉ!!



「945円!!!!」




「・・・・・・・・・・・・・・・・」


「オィィィイイイ!!ケタ2つ間違えてるだろぉおおおお!!!」

「なぜだぁあああああ!!!」

「マジか!!」

「嘘つけ!!」


って多くの人が思ってるはず、いやでもホントマジこれだけ。私が一番驚いてますよ。

コケた直後は道の駅から逃げ出すことしか考えてなかったから、バイクの被害をチェックする余裕なんかなかった。「やっちゃった・・これでダイナのシート修理に回す金が消えちゃったよぉぉお・・(ぐっすし)」って涙目になってました。でも、蓋を開けてみたら修理費はなんと1000円以下。まさに地獄に仏。「このバイクはコカしても安いですよ~」ってのはディーラー店長から情報として聞いてたんですが、まさかここまでとは・・。

これがハーレーですと、ミラーとグリップ、リアウィンカー、プライマリーカバーあたりが接地して、目立つところだけ直すにしたって10万円コースですよね。私のダイナだとコケ方によってはカスタムペイントしてるフロントカウルが接地しちゃうから再塗装と補修で5万円プラスくらいになる。

フルカウルのリッターSSにしても、アンダーカウルとウィンカーとミラーは確実に接地するから、5万円~10万円はいくでしょう。しかし、きんつばは無傷の状態に戻して945円。立ちゴケレベルの転倒だとこのバイクは機巧少女並みに傷つかない

積載重量で400㎏にならんとするバイクが何故こんなに修理費安いかというと、SC79はエンジンカバーの横から出ているプラスチックガードと、マフラーからにょっきり出てるゴムのガードの2点が接地してバイクに傷がつかないように支えるからなんです。

しかもこのガードは傷ついても、お安い価格で取り替えが可能。つまりSC79は他のクルーザー達や旧SC68と比べ「受け身性能が圧倒的に高い」んです。これ、カタログに出てこないけど凄くヤベぇ性能ですよ。

バタンと倒れても「フフフ・・・この程度の攻撃ではまったく効かないですね。笑止です。」って涼しい顔してる。強い。スタイルは締めるとこ締めて、アンドレからハルク・ホーガンくらいにスリムになりましたが、ステータスは今まで以上に防御力重視のパワーファイター。このフルアーマーぶりを前にすると、ネイキッドバイクなどは防御力ゼロのビキニアーマーですよ。

これまでのメガクルーザーは、防御の面では乗り手依存の部分が非常に大きかった。エンジンは力強く、走行質感も高く、積載量も、走行風に対する防御力も圧倒的。でも一旦倒れたら、重量車故にダメージもキッチリと刻まれるし、パーツ代もクソ高いから、ライディングスキルだけでなく、経済力が必要になる。

だって人はバイクの傷を見る度に、立ちゴケのことを思い出す生き物だから。バイクに刻まれてる傷はオーナーの立ちゴケの記録なんです。だから、心の傷を完全に消し去るには、それを思い出させる立ちゴケ傷の痕跡を消さなきゃいけない。心の傷が深いほど、バイクの傷を直視できなくなるんです。

SSやアドベンチャーなら、多少の傷は「ハクがついた」とか「外装慣らし」でいいと思う。でもメガクルーザーは違うんですよ。メガクルーザーは乗り手にとって聖帝サウザーが乗ってる玉座バイクみたいなもんなんですよ。ねぶた祭のねぶたなんです。派手で、格好よくて巨大で、威風堂々として、つよつよに見えなきゃならない。だから目立つ立ちゴケ傷など許容できないんです。

聖帝サウザー
(メガクルーザーが目指してるのは究極のところこれだと思う。)

バイクにそんなメンツを求めて何が楽しいの?誰得なの?って決まってるじゃないですか!オーナーですよ。メガクルーザーはオーナー自身が跨がって悦に入って楽しむパーソナルな御神輿なんです。

「アホらしい・・」
と思うかもしれませんが、この世の高額商品、ブランド品って「いかにオーナー様に満足してもらうか」を重要視してる。不要な性能を高値で買ったり希少性を追い求めたりする理由は「他者に対するオリジナリティや優位性の確保」に他ならないんです。

我々を常にそのように駆り立ててるのがこの社会であり、日本人は義務教育でノルマ勝負の競争価値観をたたき込まれてる。国の教育制度で国民を経済的戦闘民族に仕立て上げ、必要以上に働かせて、勝利の証として高額商品を買わせて税を取るというマッチポンプになってんですね。それを最大限利用して商売してるのはベンツもBMWもレクサスもハーレーも全部一緒です。

ハーレーとかゴールドウィングのマスツーってある意味ではディズニーランドのエレクトリカルパレードみたいなもんなんですよ。購入者だけが参加できる百鬼夜行、その非日常の高揚感がたまんないんですね。ハーレー以外の参加を認めてないのは、ハーレー世界に特化した世界感と特別感を演出するため。百鬼夜行でオーナーの気分を盛り上げ、次の販促に繋げる。だからハイブランドって定期的に上顧客を呼んでイベントをやってるわけです。

そんなミレニアムパレードに、目立つ立ちゴケ傷があるバイクで行けるか?ありえない。それはシミのついたスーツ着てパーティに参加するみたいなもんですから。

私みたいなブランドに疲れたボッチの陰キャはプライドないんでどうでもいいけど、ミレニアムパレードに参加する以上、竜とそばかすの姫みたいに巨大な鯨に乗って、誰しも華やかに束の間の夢を見たいんです。だからゴールドウィングはツアーだし、ハーレーの行き着く先はウルトラやCVOや希少価値のある旧車になる。

(竜とそばかすの姫のPV。メガクルーザーは鯨に乗ったBELLEのような気分を味あわせてくれる。このアニメはストーリー展開などに賛否がありますが、歌を最大限聞かせるという一点に特化した作品作りは秀逸だったと思う。ミュージカルは世界を歌で盛り上げますが、この映画は美しい映像が歌を強力にバックアップした結果、歌そのもので泣けた。)

各メーカーはそんなオーナーの気持ちを理解してか、多くのメーカーがパーツ価格をクソ高く設定してるんです。修理パーツで「まいどあり」状態ですよ。

しかしゴールドウィングは違う。乗り手に負担をかけないように、バイク自身が乗り手に依存しないタフさと強さを身につけようとしてるんです。初期投資額はでかいけど、それに見合う強さで乗り手を徹底的に守ろうとしてるんですよね。マゾヒスティックな重量車ラバーにはそれが物足りなかったりもするけど、いざというときにその強さはとてつもなく頼もしい。

このバイクは「立ちゴケしない自信がある奴が乗ってくれ!」じゃなくて、「重量車だからいろんな不安がありますよね。ご安心を。私が全てケアします。」って発想で作ってある。そこに流れているのは、「選ばれし聖帝サウザー様の玉座」じゃなくって「一般人のための究極の万能椅子」を作るって考え方です。

それ故に「常識的な立ちゴケレベルではダメージがほぼない」という恐ろしい結果になってる。同じ6気筒を搭載するK1600とゴールドウィングの一番の差は性能ではなく、こういう考え方の部分なのかもしれない。K1600は素の状態で立ちゴケすると修理費50万円は覚悟しなければならないし、そもそもそれを許容できる層しか相手にしてない。これに対してゴールドウィングは立ちゴケ0.1万円。だから新車人気は同じでも中古人気に大きな差が出る。中古買うのって、そもそも出費を抑えたいからなのに、立ちゴケで50万円が吹っ飛ぶバイクってハナから中古向きではないんですよ。

「いやいや、立ちゴケ50万円ってそんなバイクは特殊でしょ?俺のバイクはちゃんとエンジンガードがついてるし」っていう人もいると思う。確かにハーレーのウルトラなどの重量級ツアラーは強固なエンジンガードを備えてますが、後付け感満載のダイナやソフテイルの立ちゴケバンパーと異なり、「エンジンガードだってバイクの外装の一部としてちゃんとデザインされてる」んですよ。だからエンジンガードがガリガリに傷つくとやっぱり格好つかないとこがある。以前乗ってたゴールドウィングF6Bはコカしちゃうと鉄ガードが接地する設計だったんですが、ガードについた傷は交換以外は消す方法がない。それでもタンクが凹むようなバイクに比べりゃ夢のような設計ですが、消せない傷がついてしまうというのは見栄え重視のメガクルーザーではモチベーションが大いに下がる要因になるんです。高いバイクほどコカして売っちゃう人が多いですけど、それは「外装の傷と心の傷を自分の中で消すことができない」ってのが理由の一つだと思う。

SC79は、このようなメガクルーザーのストレスを完全に取り去るため、従来のバイクのように剥き出しのケージ式エンジンガードを採用してない。立ちゴケ時に接地するガードフレームを「つっかえ棒方式」にして、それにパージできる保護外装をつけてきてるんですよ。「コケることを前提として、傷つく部分をあらかじめ設定し、それを破棄できる激安パーツにしてしまう」ってのはこれまでのバイクではありそうでなかった発想なんです。

これは近代戦車でいう2重複合装甲、チョバムアーマーですよね。「外部装甲を別パーツにしてそれを犠牲にすることで本体を守り切る」っていうのは「オーナーの立ちゴケすらバイク側でフォローする」という考え方がないとできない。設計が面倒くさいですからね。

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(立ちゴケすると矢印の突起部分が接地するんですが、他は一切接地しない。デザイン的にもさりげなく作られてるし、これらの突起部分の内部には強固なスチールのつっかえ棒が飛び出てて強度も十分。リアの方なんてわざわざマフラー貫通させてますからね。もう凝り過ぎです。)
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(エンジン側の接地部分はプラスティックの別パーツ。このプラカバーは派手にぶっ壊れますが、お値段わずか945円。うちのきんつばもこの部分を取り替えてほぼ原状回復って感じになってます。)
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(リア側のカバーは傷が目立たないし、破損しなかったので放ってあります。これもゴム製のパーツでパージ可能。)
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(こちらはゴムパーツ取り付け前の新車。黒くて太い鉄フレームが見えますね。)

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(こちらエンジンをガードするプラパーツ、深めにバンクしてる時に路面のうねりとかがあるとアッサリ接地するんですよね。だから立ちゴケなんかしなくてもどっちにしろガビガビになっちゃうんです。)

これまでのメガクルーザーって快適さと威厳を乗り手に与えてくれてましたが、乗り手のミスに対しては厳しかった。しかし、そこにこれまでにない「優しさという概念」を持ち込んだのがゴールドウィングなんです。フラッグシップの立ちゴケ修理費がエントリーのディオより安いかもしれないって、こんなことってある??

ただ、この立ちゴケ対策も万全とはいえないかもしれない。さすがに勢いよくコケたり、傾斜地でコケちゃうと、つっかえ棒のガード乗り越えてゴロンといっちゃうと思うし、タンデムライダーが上手く離脱してくれない場合も同様の結果になりそう。しかし、こと私に関してはその心配はなかった。だってバイクからの離脱において、うちの聖帝様に勝てる人はまずいないんだから。

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(立ちゴケエースの名をほしいままにする奥方様。強い。立ちゴケ後の落ち着き払った所作はコケ続けてきた人間にしか出せない凄みすら漂う。)

うちの奥方様は中型免許の教習所で酷いときには1時間に7回くらいコケてましたからね。身長151㎝なんで、教習車のCB400SFに乗ると足がバレリーナ状態。足つかないからアッサリコケる。バイク起こすのも体格的に凄い時間かかるから、教習を円滑に進めるためにやむを得ず、教官がバイクを起こしてくれるんです。その結果どうなったか?終わる頃には教官の方がフラフラになっているという恐ろしさ。

「そんなの教習所が甘すぎるんじゃないの?」って言われるかもしれないですけど、ちょうど奥様が中免を取ってる頃、県内の教習所で大型免許教習中に女子の死亡事故があったんですよ。どうも少しばかり教習所のスパルタが過ぎたみたいなんですよね。この事件以降、女性ライダーのケアに県内の教習所が極めてナーバスになっちゃって、女子にメチャクチャ過保護だったんです。

休日とかに奥さんの教習を待合室で見ていた私は、「うわ・・酷い(笑)・・教官もうボロボロじゃん。これ完全に下剋上が成立してるよね。」って唖然としてました。さすが私の妻、凶星の下に生まれてる。強い。教習が進むともうコケるのが当たり前とばかりに、バイクを横倒しにしたまま静かに教官を見つめてる。「おいコケたぞ。そこのお前。起こせ」って命令してるように見えてしょうがない。

教習1時間に平均4回は立ちゴケしてるとして、卒検合格までに100回以上立ちゴケしてますからね。私が輪廻転生10回繰り返してもコケきれないような数を教習所で経験済みなんです。もう教習所から出てきたときには立ちゴケのエキスパートとして完全に仕上がってたと言えましょう。

「バイクに対し執着も残心も全くない」ので、我が身を守ることに特化してるところも強い。私みたいに最後まで踏ん張って腰をイワすなんてことはあり得ない。立ちゴケ時の見切りがクソ速いですからね。戦闘機でいうと、ドッグファイトで後ろにつかれた瞬間もう座席射出して機体捨ててる感じ。沈みゆく船と運命を共にしようという気概は微塵もありません。

今回もある程度傾いた時点でバイクからさっさと飛び降りて、模範的な離脱をしていたみたい。私はフルバンク停車でドキドキしてるのに、うちの奥方様は「コカしたねー。どーしたのー?ん?」って涼しい顔でニコニコしてる。強い。当然起こすのは手伝わない。

つまりきんつば嬢と奥方様って、こと立ちゴケを想定するなら「最強のタッグ」なんですよ。この最強の組み合わせによって今回の立ちゴケの損害は僅か945円に抑えられた。私の精神的なダメージはかなりのものでしたが、経済的ダメージはほとんどないという奇跡。そしてバイクの傷が完全に消えると、ようやく私の心の傷も癒えてくる。これって絶対相関関係がありますよね。

ホント、ツイてるのかツイてないのかわからないんですが、何ごとも経験ですから低コストでこの危機を乗り越えることができたことを今は喜ぶべきなんでしょう。

ということで、今回の立ちゴケに関する報告は以上で終了です。ただ、立ちゴケの後遺症はこれで終わらず、メンタル崩壊の余波でいろいろと私は迷走していくことになるんですが、それはまたの機会にお送りしたいと思います。

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(パーツ交換で全快のきんつば。今年の初走りの写真です。空気がキラキラ輝いてますね。気温3度でしたが日が当たって路面凍結がなければ冬用ジャケットとユニクロパンツで十分。GLシリーズは透明な冬の空気の中をバイクで流せる幸せを存分に味わわせてくれます。)