※2021年、トライアンフ モーターサイクルズ ジャパン株式会社は、2000年12月の設立以来、初の年間販売台数 3,000台を達成しました。

いやまぁ。すごいですねぇ。2019年は2000台くらい、2020年は2400台くらいで、ここ数年は年間500台くらいずつ売り上げ伸ばしてる。2000年にトライアンフジャパンが設立されて、2019年までで2000台規模にしかなんなかったのに、ここ2年で1000台上乗せですよ。

これ、はっきりいって大健闘だと思うんですよね。なにしろ一度倒産してるブランドがメジャーブランドのドカティ抜いちゃったんですから。普通は名前が残ってても会社としての歴史が途絶えると復興ってのは茨の道。国産4メーカーや、ハーレー、ドカ、BMWのような歴史が継続してるブランドは、製品自体にファンがついているからリピーターによる安定した売り上げが見込めるんですが、一旦倒産しちゃうと、顧客を全部他メーカーにとられた状態からのゼロスタートになっちゃいますからね。

ブランド価値って製品を通じて浸透していくものだから、会社が途絶えて製品販売が止まってしまうと、ブランドも希薄で曖昧になってしまうんです。

トライアンフ 市場フェア
(昨年秋のトライアンフの試乗フェアの広告。直営店が増えれば試乗会を頻繁に開催し、潜在的購買層に来店を促すことができるようになります。これが販売力に直結するのはハーレーで実証済み。それにしても乗ってる人が全員フルフェで黒一色とは・・。処刑ライダー路線なのか・・。)

1990年に復活するまで、バイクメーカーとしての歴史が断絶していたトライアンフは、漠としたブランドイメージはあっても、実際の製品とブランドが紐付いていませんでした。過去の名品としては、バーチカルツインのボンネビルやスピードツインがすぐ思い浮かびますが、それを引っ張り出してバイク作れば良いのか?っていうとそれだけじゃダメなんです。復興ブランドがまずやらなくてはならないことは「過去の敗北イメージを払拭すること」なんですね。

倒産したということは、歴史上はあくまで負け組。だから復興直後は「ゾンビブランド」って評価を余儀なくされる。復活したけど「まだ生き返っていない」扱いなんです。そこには「懐かしいメーカーが復活した」っていう期待と「今更出てきてなにができるの?」って懐疑的な評価が両方存在してるんです。

それを乗り越え、もう一度ブランドとして真の復活を果たすためには、単気筒全盛の時代に並列2気筒を搭載して業界を震撼させたT100(スピードツイン)くらいのインパクトで、その実力と存在意義をアピールしなくてはならない。

「我々はもう決して負けません!!」っていう強い背中を見せなきゃ、いつまで経っても「ゾンビブランド」という評価から抜け出せないわけですね。消費者がブランドに求めてるのは強者のイメージであって、強い今があって初めて過去の栄光が生きるんですよ。

しかし、復興当初のトライアンフは、その点でやや甘い考えをもっていたように思う。エンジンの多角化に有利なモジュラーエンジンを採用し、総合バイクメーカーのように3気筒と4気筒モデルを作り分けていましたし、プロダクトもデザインも吹っ切れ感がなく、イマイチぼんやりしていました。しかし2000年代中頃からは、ラインナップから4気筒は消え、3気筒勝負という明確な意図を感じるようになりました。

トライアンフはイマイチぱっとしなかった4気筒ラインナップをバッサリ見切り、個性が強く、評価の確立していない3気筒と心中する覚悟を固めたんですね。マイナーブランドが手を広げすぎてもピントがボケていくばかり。フォーカスを定めて経営資源を集中する必要があったんです。

私が思うに新興メーカーが生き抜くためには、どの世界でも「まずはマニアや好事家に刺さる商品を作る」ってのが王道。そもそも販売網が脆弱なバイクはマニアしか買わないし、彼らは他メーカーがあまり目を向けない顧客層ですから、消耗戦も避けられる。好事家やマニアを前提にするなら初心者に配慮する必要もないから、個性重視の尖った作り込みも可能になりますし、その尖りっぷりが、大手メーカーとの差別化にもなるわけです。

どの世界でも「新しくて魅力のあるものは発信力のあるマニアから一般に伝播していく」って方程式があって、マニア層の支持を受けることが重要なわけですが、マニア層の攻略って簡単じゃないんですよ。彼らは見る目は確かだけど、評価は甘くないし、楽しいことに貪欲だから、デザインにしろ性能にしろキレがないものは選ばない。やりすぎなくらいアクセル踏んで旨み成分をぶち込まないといけないんですね。初期のスピードトリプルが、性能もデザインも刺激的で尖った仕立てなのは「好事家やマニア層にブッ刺さればいいんだ」という割り切りがあったからだと思う。

トライアンフがニッチ市場で健闘していた1990年代から2000年代初期にかけて、大手メーカーは「トライアンフ?ああ、イギリスのゾンビブランドね・・」って認識だったと思う。しかし、苦難の月日を重ね、ブラッシュアップを重ね続けた3気筒と専用シャーシは、いつしか世界で十分戦えるレベルまで研ぎ澄まされていた。

2006年、トライアンフは満を持してミドルクラスのスーパースポーツ「デイトナ675」を送り出し、反撃の狼煙を上げます。このデイトナ675は、それまで歴史の中に埋もれ、消えていった3気筒エンジン達の怨念が乗り移ったかような走りを見せ、欧州市場に衝撃をもって迎えられたんです。

デイトナはトルクデリバリーの秀逸さ、レギュレーションを考慮せず実質を重視した排気量設定、軽量コンパクトなエンジンよる操縦性、高荷重高負荷に振り切った車体設計、どの回転域からでも炸裂する戦闘的な排気音などで、CBR600RRやYZF-R6、ZX6Rなどの日本勢を抑え込み、欧州で最も権威のあるバイク誌の「スーパーテスト」を4連覇します。当時のトライアンフはヒンクレーの片田舎で細々とやってるメーカーでしたから、これは地方競馬出身の馬が中央の有馬記念を4連勝するくらいのインパクトがあったわけです。

デイトナ675-2
(ヨーロッパのミドルクラスを席巻した初期型デイトナ675。3気筒のメンツを背負ったデイトナは4気筒勢に対し、これまでの鬱憤を爆発させるような走りを見せつけた。3気筒エンジンの評価を根底から覆し、逆襲の狼煙を上げた歴史的名機といえるでしょう。)

トライアンフは、70年代に精魂込めて開発した並列3気筒のトライデントを日本の誇るCB750FourやZ1などの4気筒勢にコテンパンにされ、ついには倒産という屈辱を味わいました。しかしそれから30年の時を経て、当時一敗地にまみれた3気筒で日本製の4気筒バイクに雪辱を果たしたんです。これはまさに時代を超えた仇討ちで、欧州のライダーのナショナリズムを刺激すると共に、トライアンフにとって理想的なストーリーになったんですね。

そしてトライアンフが3気筒エンジンの評価を確固たるものとしたとき、目の前には広大な無人の海が開けていた。3気筒の「マイナスイメージ」を払拭しさえすれば、後は圧倒的なオリジナリティを持つこのエンジンで、2気筒エンジンと4気筒エンジンが支配している領域に攻め込んでいくだけ。

これまでニッチだったものが突然メジャーになっちゃうと、目新しいだけに市場浸透力がメチャクチャ高いんですよ。ヤマハがMTー09を出して、評論家がそれを絶賛しまくったのも、トライアンフにとって追い風になったと思う。「3気筒など所詮は弱小メーカーのマイナーエンジン」という評価はヤマハの参入で一気に消えた。ヤマハが優秀な3気筒を作り、それが市場に支持されればされるほど、「3気筒の老舗であるトライアンフが注目される」という構図が生まれていったんです。

ちなみにトライアンフの販売において、もう一本の柱であるバーティカルツイン系も、ライダーの高齢化に伴って、定番的な人気が止まらない。(昨年ホンダから発売されたGB350もトライアンフの追い風になるような気がしてならない。)トライアンフは走りを重視する若いライダーを3気筒で引きつけ、高齢者をバーティカルツインでケアしてるから、遡及する購買層にも隙がないんですね。

近年トライアンフがスルスルと販売数を伸ばしてるのは、「販売網さえ整えれば、ほっといても売れる」だけの個性とプロダクトパワーをすでに備えてるからです。私はザラブ嬢を購入して乗り回してみて、「これだけの熱量で走るバイクが作れるメーカーなら、そりゃフツーに販売伸びるよね」と思いましたから。

国産バイクよりちょっと割高だけど、他の輸入バイクよりちょっと安いって価格設定も渋い。海外製にしてはリーズナブルに感じるし、高性能パーツ入れても手の届く価格に踏みとどまるところは、走り好きなライダーのためのバイクを作ってきたトライアンフの気質が見え隠れして、プラスのイメージになってる。

私から見ると今のトライアンフって凄く自然体なんですよ。売りたい売りたいっていうオーラをまったく感じない。「これ売らなきゃ死んじゃう!」「このモデル気合い入れましたからっ!」っていう必死さがなくて、どのモデルも飄々としてる感じがするんですね。ドカティやBMWやハーレーみたいに「えっへん」って胸を張ってるイメージはまったくない。権威的なとこがないから、通っぽくさらりと乗れるところが好印象。

これからもトライアンフは認知の広がりと共に販売台数を伸ばしていくと思う。トライアンフの3気筒は乗って後悔しない鉄板のスポーツユニットだし、バイクのデキや実力の割には街中の台数はまだ少ないと思う。私みたいに「一生に一度は3気筒乗っておこうかな・・」っていうバイク乗りも多いでしょうから上げ幅は相当ありそうです。

販売網さえ整備すれば、放っておいても自然に売れてく。それが今のトライアンフに対する私の評価です。だからハタから見ててもこのブランドは全然面白くない。傍観者である私としては、いろいろと苦難の中で難しい舵取りをしているハーレーの方が見ていて興味深いから、どうしてもそっちの方に目がいっちゃうってことになってますね。

地下アイドル3+1
(年始から非常にブラックな漫画ではじまりました。昔のトラは渋谷系地下アイドルのような雰囲気がありましたが、今のクォリティは地下アイドルとは到底言えないレベルになってる。その一方でインディーズの雰囲気も失っていない。そこが良いですよね。)