今回は「3気筒エンジンについてダラダラ語る」のPart2です。ストリートトリプルRS(愛称はザラブ嬢)の現在の走行距離は6600㎞。エンジンもアタリがついて軽くなり、フィーリングはどんどん4気筒に近づいてきてます。

一般に3気筒は「2気筒と4気筒のいいとこどり」って言われてますけど、じゃあいいとこって具体的になんなの?ってところはイマイチ詳しく語られずボカされてるような気がしてるんですよね。私自身は「悪いところと良いところの両方があって初めて個性だ」って考え方してるんで、いいとこ取りって実はあまり好きな表現じゃないんです。

私が思う3気筒のいいところは簡潔に言うと「公道におけるスポーツバイクの動力発生装置として優秀なところ」です。「いやいや、なんでそんな味気ない表現になってんの?そんなエンジン面白味がないだろ?」ってツッコまれるかもしれないけど、このエンジン、見方によっては面白味はないんですよ。

やっぱりアニメキャラでもツンデレとか、病み系とか、アホの子、ロリッ子、男の娘など、明確にキャラ立ちしてる方に人気が集まるじゃないですか。でも、ザラブ嬢の方向性ってどっちかというと古い価値観というか、ガチ派のオタ路線なんですよね。でもヘッドライトをブラジャー型にしたり、デザイン凝りまくったりと脱オタ方向に走ってるからちょっと誤解されてるところもある。自らすすんでニッチであろうとしているようにも見えるんです。

バイク業界は長いこと「3気筒には魅力がない」として、単気筒、2気筒、4気筒などの個性的キャラを採用してきましたが、スピードだけでなくエンジンに対する価値観が多様になってくると、これらのテンプレエンジンをベースとしたキャラ変更だけではバイク変態達は飽き足らなくなってきた。しかも、優しいお姉さんポジだった空冷エンジンが環境規制で放送コードに引っかかったりして、閉塞感も漂いはじめる。そんな時代背景の中で、真面目でクソ熱いスポ根女子みたいな3気筒がニューキャラとして登場したんです。

確かにこの手の熱血キャラって色気に欠けるし、柔軟性がないからあまりウケないんですよ。でも、キャラ立ちを優先したエンジンばかりを乗ってきた人達から見れば、3気筒の化粧のなさが逆にメチャクチャ新鮮なんですよね。

トラのトリプルって、素直で真面目で、乗り手の言うことを実によく聞くんです。自分の技量を超える強キャラなのに「お前は機能肉になって私に従え!」って言わない。「何があっても私がご主人をサポートしますからっ!さあ心を燃やしましょう!」って目をキラキラさせて握りこぶしを上下に振ってる感じなんですよ。鬼滅隊でしょうか?今までツインやマルチのワガママで個性的な出力特性に付き合ってきた私にすれば、トライアンフのトリプルの「超熱血のフラットトルク」は衝撃の一言だったんです。

それでは下の出力表をご覧下さい。これは ストリートトリプルRSと同排気量の4気筒、3気筒、スポーツ2気筒の出力特性を比較したものです。

パワーカーブ比較2

4気筒は山あり谷ありを繰り返しながらとにかく上にどんどん伸びてくのがよくわかると思います。横伸びしているんでわかりにくいですがトルク変動の幅も広い。逆にツインは6500回転がトルクピークでそこからなだらかに落ちていく。中速域で一番パンチがあるというトルク特性なんですね。

で、これだけで比較してると「うおー上が伸びまくってパワーモリモリの4気筒ってやっぱ素晴らしいじゃんかーっ!!」ってなっちゃうんですよ。要は回転数というピストンの連打能力がずば抜けてるからトータル破壊力が桁違いなワケですよね。でもこれが公道の戦闘力につながるか?っていうとそうとばかりはいえないのが公道バイクの沼なところなんです。

パワーカーブ比較5

続いてこちらのグラフをご覧下さい。このグリーンゾーンは30馬力から80馬力までを使って走ろうとした時の使用領域を上のグラフから切り取って比較したものです。(回転数とパワーの尺は比較しやすいように合わせてあります。)私の個人的見解ですが、地方道のタイトなワインディングで安全マージンとって走ろうとしたら、私を含め一般人はこれくらいのゾーンで満足できるはずです。

80馬力は私の経験では十分に事故れてオツリが来る馬力ですから、下道のワインディングで「これでは満足できないのじゃー」と不満タラタラな人はスピードジャンキーとして更生施設へ行くか、ロボトミー手術が必要です。一方で、第三京浜や湾岸、東北自動車道三車線区間が主戦場の方々は、このグリーンゾーンより上が何より大事ってことになるから、4気筒一択でしょう。ただし、免許がガクブルな領域に入っちゃいますけどね。

貧乏自治体が税金で整備してる地方のワインディングで、2輪がコーナー立ち上がりに100馬力以上叩きつけたら安全マージンなんてないですよ。ザラブ嬢の100馬力って約9500回転ですが、こんなのホント長い直線でも入らないし入れちゃいけない。3速で150㎞くらい出ちゃってますから。この100馬力から2割の安全マージンとって走ろうとすると、80馬力になるんですよね。

これを踏まえてグラフを見ますと、スポーツツインは有効回転のほぼ全域がこのパワーゾーンに入っていて、ワインディングで上から下まで綺麗に使って楽しめるのがわかる。ツインの割には1万回転近くの高回転まで頑張るから、下のトルクがないのはご愛敬ですが、実用する中間トルク帯の太さはさすが。バイクで一番いいところを積極的に使って走れるってのは快感で、出力特性見ても、とっても楽しそうですよね。

逆にナナハンクラスの4気筒って、高回転で凄く伸びるから超高速バトルは脳汁ブシャーでメチャクチャ快感なんですが、タイトなワインディングで80馬力程度に上限切られちゃうと美味しいところにはまったくもって入らない。14500回転でレッドゾーンの高回転型エンジンを9000回転までに抑えて走ることになる。

4気筒でパワー出そうとすると、排気干渉やなんやらで下がなくなるんですけど、ナナハンクラスでは低回転を力業で支えるほどの燃焼室容量が確保できないから、トルク曲線も千鳥足になる。トルク変動が大きいってことはパンチの威力が上がったり下がったりするってことですから、これは戦いにくいわけですよ。以上の次第で「高回転高出力にマジ振りしたナナハンクラスの4気筒SSは日本の山道では能力を発揮しきれない」、楽しく走るには少々デチューンしなきゃいけないってことになるんです。

これに対してストリートトリプルRSの出力特性はどうか?もうね。パワーが上から下まで直角定規の斜線みたいに真っ直ぐ出てきます。よく出力をパワーカーブなんて表現したりしますが、ストリートトリプルRSはパワーカーブじゃない。パワー斜線ですね。電車道ですよ。

内燃機においてトルクはパンチ力で、エンジン回転はパンチの連打能力に相当します。馬力はトータル破壊力みたいなもんですね。バイクにとってトルクが最も高いところが吸気効率が良くパンチに威力がある得意領域ってことになる。ザラブ嬢でいうとトルクが最も盛り上がる8000回転から10000回転くらいがそれにあたりますが、この領域では破壊力がありすぎて公道路面じゃオーバーキル状態になるんです。その点では4気筒と同じような業を背負ってるといえますね。

しかし、トラのトリプルはそこからが違う。その領域外のグリーンゾーンで走ったところでトルク変動は一切ないんですよ。腰が据わっててパンチ力がフラつかない。ワインディングで一番使う部分でも高トルクをひたすら維持しつづける。もうね。トルク曲線が「死んだおじいちゃんの心電図」みたいになってますからね。これはメチャクチャ使いやすいですよ。

トラのトリプルが多くのライダーから支持されてるのは、「豪快にキレ上がるパワー感と全域におけるフラットトルク」という美点を備えているからだと思う。確かに回転フィールに艶や個性には乏しいし、低回転からギャンギャン吠えてせわしないけど、実際仕事させてみたらクッソ有能なんですよ。暇なときでも繁忙期でも仕事のクォリティが変わらない。回転域が合わないからとサボることはまったくない。これって超有能社員じゃね?「ウチのオフィスにもこういう奴が欲しいんじゃがーー!」って思うくらい。こんだけの仕事能力を見せつけられると、多少キャラがヘンテコでもまったく関係ないですよ。

DSC_1373
(犬のように従順なザラブ嬢。軽い車重と3気筒の扱い易い特性も相まって、タイトな峠ではポン刀のようなキレっぷり。前後左右に激しく振られ、まるでバイク版ブートキャンプです。これは痩せる。)

エンジンの有能ぶりに加え、トラのトリプルは電制スロットルを含めた制御系の作り込みが素晴らしい。よく「良いブレーキは軽く握り込んだときのタッチの良さと、強く握ったときの絶対的制動力が同居している」なんていわれますが、スロットルもブレーキも求められてる特性は基本的には変わらない。ブレーキは減速側で、アクセルは加速側ってだけです。だからスロットルも僅かな開け閉めやパーシャルのときのコントロールしやすさと、ワイドオープンした時の絶対的パワーが同居してるのがスポーツライディングには理想的ってことになると思うんですよ。

悪いブレーキタッチの見本としてよく例に出されるのが「カックンブレーキ」ってやつですが、これをスロットルにあてはめると「ドンツキ」になる。微細入力に対してバイク側が過剰に反応しちゃうと、ブレーキ、スロットル関係なく非常に乗りにくいんですよね。

では、ザラブ嬢のスポーツモードはどうか?っていうと、スロットルの開け始めのトルクの出方は初期でしなやか。コーナー手前で握り込むブレンボの初期タッチもしなやか。バンキングしたときの車体もしなやか。ホント、初期タッチが全て「しなやかさん」で統一されてます。しかも強めの入力をすれば、軽量ボディも相まって、年寄りにはちょっとしんどいくらいの加速能力と減速能力を披露してくれる。

123馬力も出ちゃってるのにアクセル開度の微細領域で乱暴なところは一つもないから、コーナリングがメチャメチャ安定してます。凶悪な加速するのはストレート立ち上がってアクセルをガバ開けしたときだけ。下手こいてドタバタになっても、どこからでも加速しちゃうから、立て直しも凄く楽。スピード以前に「走りやすさと体感の気持ちよさが地道に作り込まれてる」んです。このエンジンより速いユニットはこの世に一杯ありますが、日本の峠でこんなに扱い易くフレキシブルなハイパワーエンジンは過去に記憶がない。

スロットルとエンジンが直結してるんじゃないか?ってほどスロットル開度とパワーデリバリーのリンク度が高いんで、馬力があるんですけどエンジンに振り回されてる感が一切ありません。エンジンが乗り手の思いより前に行かないから、常に「乗り手が支配者」という感覚で走れるんです。バイクってパワーの出方によっては2スト250の45馬力でさえ振り回されてる感がでてくるわけですが、その3倍の123馬力をキッチリ制御できるっていうのは非常に大きな美点だと思うんですよ。

握りこぶし・完成4
(ザラブ嬢の真っ直ぐな熱さはまさにGガンダムの世界観。スポ根女子にはGガンダムがよく似合う。それにしても私の絵柄も古いですねぇ・・。)

ただここで一つ難点を上げるとすれば、このエンジンは公道ではあまりにも優秀すぎるってことです。公道なんて多少ダメエンジンの方が良いんですが、サーキットレベルのエンジンがほぼ素のまま提供されちゃってるんですね。レース仕様から多少丸められてるみたいですが、スポーツモードのフィーリングはレーシングエンジンそのまんま。それ故昔の2スト250レプリカと同類の香りがするわけですが、こっちは123馬力ですからね。マジヤバでしょう。ザラブ嬢は中規模の海外メーカーだからこそ可能なエポックメイキングな作りで、「エントリーユーザーをケアしないバイク」になっちゃってるんです。こういうバイクはテスターからの評価がやたら高い傾向にあるんですが、ビギナーにはかなり危ないんですよね。

昨今のハイパワーバイクの本質に関わることですけど、「ビギナーのために電子制御でメチャメチャ介護した200馬力」と、「ビギナーを切り捨てた素の120馬力」、どっちがヤバい?って聞かれたらヤバイのは多分後者だろうな・・って思うんですよ。そして、ザラブ嬢は確実に後者のほうに属するバイクです。しかも、レーシングエンジンだけあって誘惑度は非常に高い。これを怖いもの知らずで実戦経験が乏しい昔の私のようなバイク乗りに与えたらどうなるか?

「怖いもの知らずのバカ」に高性能で従順なバイクを与えると、「怖いもの知らずのバカっぽい走り」になるんです。

これは私という超絶バカが公道事故9回という惨事を繰り返す過程でたどり着いた絶対真理です。で、「バカには必ず天誅が下る」という予定調和もこれまた避けがたい。

それが厭なら、常にデンジャラスゾーンに飛び込もうとするバイクの誘惑に負けないよう、乗り手が手綱をガッツリ握らないといけない。でもスピードという刺激に対する抵抗力がヨワヨワのバイク乗りにとって、それはとっても難しい。精神ヨワヨワの私がザラブ嬢の誘い水に抵抗できてるのは「過去9回の事故でその身に刻まれた痛みと後悔」があるからです。

若かりし頃バイク店に勤務して、いろんな人や事故を見てて思うんですけど、バイクって乗り物はやっぱり「機械単体でなくそれを駆る乗り手とセットで語るべきもの」です。ザラブ嬢は切れ味鋭いポン刀のようなバイクですが、それが聖剣になるか、魔剣になるかは乗り手次第。その威力が大きければ大きいほど魔剣になったときの惨劇は大規模なものになる。乗り手によっては、優秀なバイクが最良のバイクとはいえないところが、バイクの奥深いところでもあり、難しいところだとシミジミ思います。

ということで、今回もメチャメチャ長いブログになりましたが、3気筒の魅力を語る素人ブログも非常に少ないと思われますので、今後も折を見て、このダラダラ語りを入れていけたらなぁと思っています。