「ヒマね・・」

残暑のまだ残る9月、ふとウチの奥様がアンニュイに呟いた。この一言から私のバイク人生の一つの転機がやってきたんです。

「あの~本日は天気も良いですし・・・、乗り心地の良いでっかいバイクもありますんで、タマにはバイクで林道クルージングなんていかがでしょうか?」

「・・・いいわ。乗るわ。」

「あーーーやっぱり、そうですよね・・。快適な車のあるご時世に、バイクなんぞ・・え??」

「乗るって言ってるの」

「ええええええええーーーーー!!!マジですか!!!」

ということで、十何年ぶりでしょうか?奥様をバイクの後ろに乗せて走ったんです。実はウチの奥様、私に触発されバイクの中型免許を取得し、一時はエストレアに乗ってたんですが、ある時期から全然乗らなくなってたんです。

その奥様が、久方ぶりにバイクの後ろに乗ってくれると言ってるわけですから、これは常連にしなきゃならない。今後の私のバイクライフを明るいモノにするためにも、絶対にここで失敗はできないんです。いろいろ考えたあげく私が向かった先は森林浴がたっぷりできる近場の舗装林道。山歩きが好きな奥様に「バイクトレッキング的なものを楽しんでもらおう」という下心です。

選択したバイクは乗り心地重視でゴールドウィング。その道中、そりゃまぁ慎重に慎重を期して走りましたよ。軽いランニング程度のスピードで。もうバイクっていうよりアトラクション。ひたすらバイクを穏やかに運転するための機能肉に徹した結果、奥方様の印象がことのほか良かったんです。そこで、さらに足を延ばして海沿いの丘で夕日が水平線に消えるのを見たんですが、幸運なことにその日の夕日が過去に記憶にないほど綺麗で、奥様の心にブッ刺さったようなんです。

「ああ・・バイクの二人乗り・・凄くいいわね・・。自分が運転してるときは運転に必死で景色なんて見る余裕なかったけど、後部座席で景色だけ見てるんであれば・・これは最高だわ。」

「そそそそそそそそうなんです!バイクは走りながら景色を眺めるのが最高なんです!もしご下命を賜れれば、いずこでもお連れ致します!!」

「よし、雇おう」

このような成り行きで私と奥様は今年に入って度々奥様に雇われ「週末ツーリング」の運転手として奉仕するようになったんです。当然私の「下忍ポジション」はタンデムツーリングでも変わりません。結婚してはや22年。これまで積み重なった悪行の贖罪をここで果たすという私の決意も固い。

これは私のバイクライフにとって劇的な環境の変化で、これまでの私のライディングに新たに「タンデムスキル」を加えなくてはならなくなったんです。今まで自分勝手に走ってたわがままライダーが、ある日突然「社用車の運転手やれ」っていわれたようなもんですね。

実際、私は約30年以上のバイク歴の殆ど全ての期間がエアタンデム。「脳内妄想のお嬢さん」を乗せ続けてきただけですから、人類を乗せてのリアルタンデムは僅か数回のタンデム童貞なんです。

「お前・・ゴールドウィングに通算8年乗ってて、タンデム童貞って(笑)」

って笑われるかもしれませんが、私は6気筒が好きでGL乗ってたわけですし、タンデムの意志はあっても、悲しいかな「タンデムライダーの調達能力が皆無だった」んで、タンデムのしようがなかったんですね。

車なら助手席に忍野忍あたりの抱き枕くくりつけて疑似彼女を顕現させることも出来ますが、外気遮断性のないバイクでそれやるともう次元の違う変態になりますから、必然的に私のタンデムシートはいつも空席だったんです。

忍野忍2.5
(物語シリーズから忍野忍。見た目ガチロリですが、正体は真祖吸血鬼。中身を長寿の成人女性とすることで「ロリコン性癖を満足させつつ犯罪臭を消す」という悪魔的品種改良が施されてます。数多の男性のロリコン性癖を満足させるべく作られただけに、やることなすこととにかくあざとい。当然人気は高止まり。グッズ入れ食い状態となっております。)

奥様がタンデムライダーになったことにより、ダイナやきんつばというクルーザー達の操縦性、乗り心地について、パッセンジャー目線の貴重なインプレが頂けるようになったわけですが、そこで問題が一つ。ウチの奥様はバイクに全然思い入れがないし、自分が感じたことをストレートに言うもんだから、とにかく表現が辛辣なんですよ。

最初のツーリングの終了後「ゴールドウィングには背もたれがないのでちょっと怖い」と奥方様がおっしゃるので、それでは・・とダイナにアタッチメント式の背もたれを装着し、ツーリングに出てみたところ70kmくらい走ったところでギブアップ。

「これはしんどいわ。浅野内匠頭切腹を赤穂に知らせる伝令の気分よ。早駕籠に乗って到着したら息も絶え絶えになってるあれね。とにかく振動で疲れる。体力削られる。」

「でもこういうバイクで、二ケツロンツーしてる人もいるんだけど・・。」

「それはね。多分若さよ。若さというリジェネーションスキルで無限回復してるだけ。こっちはもう生命体としての峠が過ぎてるのよ。マジダイナはキツイ。ゴールドウィングはこれに比べればレクサスだわ。」

「そ、そこまでなの?確かに自分もゴールドウィングの方が疲れないと思うけど、そこまで差がある??」

「前に乗ってる分にはどうか知らないけど、後ろはそうよ。あとはダイナは曲がるときに反対方向にフラッときてから曲がっていくのが不安になる。ゴールドウィングは何事もなくスーッと入っていくんだけど」

こういう意見を聞くと、タンデムがエマージェンシーのバイクと、タンデムライド前提で設計されたバイクとではリア周りのシャーシの余力や仕立てが全然違うんだなぁ・・と改めて思います。私はもうなんも考えずに運転しちゃってるんで、ダイナで逆ハン切っている意識すらなかった。対魔忍並の不感症状態ですが、後ろの人には挙動の違いがよくわかるみたい。

ソロライダーを続けてきた私はこれまでタンデムの乗り心地なんて殆ど意識しなかったですし、タンデム能力なんて真っ先に切り捨ててきたんですよ。しかし、タンデムシートにしか乗らないウチの奥様にとっては、私の切り捨ててきた部分がそのまま評価に直結してしまう。その結果が「江戸の早駕籠(はやかご)」「レクサス」です。この差はちょっと信じられないくらい大きい。

ソロで乗ってる分にはダイナときんつばの良さって一長一短で、どっちが良いってものではないし、ダイナ嬢のサスは私が手塩に掛けて調整した前後オーリンズですから、サスに投下されてるコストと手間はゴールドウイングにだって負けてない。でもそのオーリンズをしてなお、2ケツだと全然評価上がらないわけですよ。

結局これはダイナが悪いと言うより、車体の設計、特にリア周りのシャシーとシートの余裕の差なんでしょう。これ間違っても、ホンダが良くてハーレーが悪いなんて話ではありません。だって、ハーレーでゴールドウイングに対抗するポジションのウルトラリミテッドはタンデムライドの王者で、多くのメガクルーザーがお手本としてるバイクですから、パッセンジャーシートの乗り心地が悪いはずがないんですよ。ハーレーが本気でタンデムを作り込んだウルトラ系は夢のような快適さなんだと思うんです。

今回のタンデム走行でウチの奥様が問題にしてたのはとにかく振動面。ハーレーご自慢の「男らしい鼓動感」がタンデムでは「江戸の早駕籠」と評価されるほどの不快要因になっちまってるんです。「いや、そんなことない!パッセンジャーもハーレーに乗る以上、この熱き鼓動感を理解しなければならない!不敬である!」って強気の主張もあるとは思うんですが、それは恐妻家がワイフに面と向かって言えるセリフじゃないのは理解して頂きたい。

ツッコミ2
(非常に情けないツッコミを入れる2台。精神レベルはどっちもどっちです。)

鼓動を強調する人だって、自家用車がドコドコブルブルと振動してたら厭になると思うんですよね。確かにハーレーの振動には味と魔力があるんで、ハーレー乗りがそれを強調するのも理解できるけど、その一方で音震対策ってのは安楽に人を運ぶときの基本中の基本。バイクを単なる移動手段と考えてるパッセンジャーが車と同レベルの快適性を求めるのは致し方ないと思うんですよ。

私はバイクの振動を心地よいものにし、疲労を緩和するキモは「シートとステアリング」だと感じてます。振動が売りのエンジンで前サス固めすぎるとステアリングに振動がバシバシ来るから、初期のインフォーメーションはある程度ダルにするしかないし、シートはヘタるとこれまた振動の角が立ってきてしんどくなるんで、可能な限り衝撃吸収性の高いシートを奢っていきたい。一度自分でフロントサスをセッティングしてみると、ハーレーのノーマルサスがなんでダルサスなのかが体の芯からよく解る。で、可能であればステアリングから伝わる振動と、尻から伝わる振動が同レベルになるように調整したいわけですよね。

これは単気筒でもツインでも「振動のあるバイクを長距離移動のツールとして使おう」とすると、同じ理屈になるんじゃないかと思います。私は今K&Hのシートのスポンジ交換に踏み切ってますが、ヘタったシートで乗るVツインはホントシンドイですから。

ライダーでこれなんですから、パッセンジャーはもっと大変。ライディングに意識をさかなくて良い分、シートからの振動に意識が集中しちゃってますからね。ダイナのノーマルシートはフロント部分の座面はこれでもかと広くとってあるんですが、パッセンジャーシートはかなり絞られてて、座面が狭いし、クッションも薄い。これでは奥様の評価が厳しくなってしまうのはいかんともしがたいんです。

DSC_14561+1
(ダイナのノーマルシートときんつば嬢のノーマルシート。パッセンジャーシートの座面の広さが全然違う。ステッチの細かさや表皮の質などを比べても、明らかに後者の方がコストかかってる。)

ウルトラなどのツーリングファミリーはパッセンジャーシートに振動があまり伝わらないように、ふかふかで分厚いクッションを採用してる。いわゆる社長室の革張りソファーみたいな感じですよね。振動エネルギーを拡散し、お尻の痛みを緩和するため座面が非常に広く、作り込みの質も高い。

これに対して、奥様からレクサスとまで絶賛されたゴールドウィングはシートの座面は固め。でもこのシートが奥様に言わせると非常に良いらしい。ダイナだとすぐ「尻が痛い・・」と言い出すのに、きんつばだと1日まったくそんな泣き言が入らないんです。夕方になっても「お尻?問題ないわ。自宅の座椅子より楽ね。まだまだいけるわよ。」って感じ。きんつばは6気筒でエンジン振動が皆無ですから、振動緩和機能をシートに持たせる必要がないんですよね。で、その分座面にコシがあって疲労度の少ない人間工学的アプローチができてる。ここでも無振動の6気筒が効いてるわけです。

このように6気筒ベースとVツインベースじゃ、シートに求められてる役割も違うんで、パッセンジャーのシートフィーリングも全然違うと思う。ダイナでは勝負にもなりませんでしたが、タンデムライド専用マシンのウルトラとゴールドウイング・ツアーを比較するときは、一度レンタルバイクでロングのタンデムツーリングに出たりして、パッセンジャーの意見も聞きつつ比較検討してみるのも良いかもしれませんね。