今回のブログではSC68のF6BからSC79の無印マニュアルへ乗り換えた、へっぽこライダーの総括意見です。先ごろこちらのブログで、メガクルーザーの選択にあたり私が重要視するものを書きました。それは、

①大怪獣のような威嚇力

②他のバイクにはない個性とオリジナリティ

③湧き上がるような大馬力と巡航時の走りの質感


です。ゴールドウィングもメガクルーザーですから、当然これらの要素が重要視されるわけですけど、「ライバルとの比較が意味のないバイクになったなぁ・・」と個人的には思ってます。以前は直列6気筒でテレレバーを採用するK1600ってライバルがいましたから、試乗対決がそれなりに成立したと思いますけど、今は優劣競ってもしようがない気がしてる。(←BMWからK1600の2022年モデルが出ましたので、ここから先の文章はつじつまが合わないんですが、戒めのため文章はあえて変えてありません。私の読みの的外れぶりをお笑い下さい。)

BMWのK1600がディスコンとなった今、ゴールドウィングはバイクで唯一残った6気筒エンジンです。メガクルーザーの枠取っ払ったとしても同系列のエンジン詰むバイクは現行車では存在しない。フロントには、これまたバイク業界唯一のダブルウィッシュボーンサスがツッコんである。

この2つの要素だけで、もはやメカ的な個性とオリジナリティは突き抜けてる。「バイクの土台はシャーシとエンジン、残りの便利装備は基本オマケ」と考える私としては、エンジンとシャーシでこれだけ個性出されちゃうと、もう後は「欲しいか欲しくないかだけでしょ?」って感じがする。

数多くのメガクルーザーが鉄馬文化の象徴ともいえる大排気量2気筒エンジンで覇権を争う中、多気筒大排気量エンジンの愉悦を味わいたければゴールドウィングしか選択肢がありません。環境対応が叫ばれて、非効率なものを生き残らせていくことはとても難しい中にあって、ゴールドウィングはホンダの技術力を惜しみなく投入して「多気筒という名の贅沢」に邁進する存在になってますので、もはや「ハーレーやインディアン、BMWと比較する必要はなくなった」んじゃないかと思ってます。

殺し文句は極めてシンプル。「失われゆく6気筒の世界へようこそ♡」です。最新の見た目だけど、内に秘められた概念は「複雑で過剰なものを詰め込むほど高級である」という、機械式時計のような非常に古くさい価値観なんですよね。威嚇力や積載量にこだわる人の候補に上がるバイクではないと思うんですが、6気筒という個性を重視する人にとってはライバル不在です。

だから、購入を比較検討するとなると、ディスコンになったK1600か、旧型のSC68の中古ってことになってくると思うんですよ。(今は中古市場にタマが壊滅的にありませんが・・)

DSC_0758(SC79とSC68の正面比較。如何にSC79がスリムかがわかる。)

今回はSC79無印とF6Bの比較をするわけですが、最初に言っときますと、私はSC79よりF6Bの方がデザインは好きです。今でも道の駅でF6B見ると「う~ん、カッコいい~」と思いますもん。威嚇力は重視しないっていったって、この価格帯のバイクですから、押し出しや異形感は当然あった方が良いと思う。現行のSC79は水平対向6気筒の強みを生かすために巨大戦艦路線を捨ててスマートになってますから、威嚇力ではめっちゃ不利。ザクレロとZガンダムを目立ち度だけで比較したらZガンダムは絶対勝てませんからね。「じゃあ、なんでカラダを絞ったの?」っていうと、小さい方がマスも集中するし、軽くできるし、空気抵抗が少なくなるし、使いやすいからでしょう。

F6Bは巨大で威嚇力がある反面、高速走行が凄く苦しかったんですよね。カウルがとにかく巨大でしたから、140㎞も出すと風の抵抗が凄かった。5速ミッションだったから、高速道路ではエンジンもかなり回っちゃう。おかげでちょっと高速でシゴくと燃費がガタ落ちだったんですよね。

6気筒の強みって超低回転域でも高回転域でも、アクセルを絞ろうがワイドに開けようが、とにかくトルクが美味しく出てきて、マナーの良さが維持されるってところですから、SC79は「車体もより広いレンジに対応させていこう」って路線に舵を切ってます。80km/h~110km/hくらいまでの巡航に割り切った(テレスコの限界を考えると、それは素晴らしい見識だったと思う)旧型と異なり、SC79は車体の強化と空力の向上でリミッターの180km/hまできっちりカバーする設定で、欧州でも旅バイクとして快適に使えるように仕立ててあるんですね。

「NSR1800なのじゃ!」といわれたくらいエンジンが気持ちよく回り、走りも元気が良かった旧型に比べると、とにかくエンジンを回さない方向。100km/h巡航2000回転ですよ?超トルク型のハーレーやBMWのR18でも100km/h2200回転、最大排気量2500ccを誇るロケット3だって2300回転くらい、F6Bだと2800回転まで回ってたってのに、この6気筒は2000回転しか回ってないんです。

これ実際メチャクチャ凄いことですよ。だってメガクルーザーは巡航から追い越しかけた時、ガッツリとパワーが乗ってこなくちゃダメなバイク。それがメガクルーザー最大の見せ場ですからね。このためトルクが8割方出てて、力強く加速できる回転域の下限あたりで巡航させるのが常道です。そう考えると100km/h巡航が2000回転なんていう設定がどれだけ異常かわかって頂けると思う。これは低フリクションでマナーが抜群でマスター・オブ・バカトルクな最新鋭6気筒だからこそ可能な芸当ですよ。

「いや、そうはいっても、トランク容量削って、カウルも小さくなって、旅バイクとしては劣化してるんじゃないの~?」

っていう意見もあるでしょう。いやその通りです。でも、新型旧型の優劣って「メガクルーザーに何を求めるか」で変わると思うんですよ。荷物沢山積んで、道の駅で衆目を集め、古き良き乗り味を堪能したければ、旧型の方が良いと思う。

DSC_1079
(嫁から「ゴキブリみたいね・・」と呟かれてしまった、悲しき「きんつば嬢」の近影。せめてエヴァンゲリオン3号機って呼んで欲しかった。)

SC68からSC79の最大の進化は何なのか?それはざっくり言うと「旧型のF6Bにあったストレスが大幅に減り、乗り味がよりメガクルーザーらしくなった」ってことでしょう。「いやいやストレスに耐えることも重量級バイクの醍醐味じゃない?」って見方もあるわけですけど、究極的にはクルーザーって巨大風防と安楽シートでストレスと無縁のところを目指しているはずなんです。

これまでのクルーザーは巨大で贅沢なエンジン、豪華なタンデムシート、圧倒的積載量とバーターで、超重量と巨大な体躯から来るストレスを許容していたし、それを乗り手は受け入れて特段文句もいわなかった。バイクにおいては「多くを求めれば、軽量コンパクトという最大の利点を失う」のが当たり前で、それが逃れ得ぬ宿命だったからです。

しかし、今回のSC79はその常識を覆すべく果敢にチャレンジしたと思う。車体を圧縮し、マスの集中化により機動性を向上させ、乗り味も「え?うそ・・これミドルクラス?じゃ・・ないよね・・」って思うくらい、重量を感じさせない。

SC79は水平対向6気筒エンジンが2気筒エンジンに対してもつ優位性と、ホンダが他メーカーに対してもつ小型軽量化技術の優位性を全面に押し出して全てが組み上げられてます。だからこそ、形のあり方、存在意義が2気筒エンジンを積むアメリカ型のメガクルーザーと全然違ってきてる。これこそ日本の生んだメガクルーザー。ナチュラルパワーファイターの「キングコング」に対し、核融合での熱線攻撃を得意とする「ゴジラ」のような存在です。

SC79は当初から積載性に批判は多く、2021年モデルで顧客の声に押されてリアトランクが大きくなったけど、当初の設計方針では、「超重量級メガクルーザーからストレスを取り除く」というチャレンジを成功させるために、「切り捨てるものは切り捨てる」という割り切りがありました。

私がゴールドウイングを選んでる理由って「6気筒のトルクフィールが好きだから」なんです。6気筒がたっぷり味わえれば満足なんで、積載量とか電子装備とかってあまり重視していない。私の優劣の基準は、「ホンダが6気筒の味わいをどれだけ引き出してるか?」、F6Bときんつば嬢の比較でなにより大事なのはこの点です。

で、きんつば嬢ですが、アクセル開度をパーシャルにして下道ダラダラ走った時の気持ちよさったらない。これこそメガクルーザーそのものって走りをする。「多気筒エンジンは回してナンボ」という従来の提案から、「低回転で本領発揮の多気筒エンジン」という新しい提案をしてる。巨体をものともせず高回転で振り回すんなら旧型の方が楽しいけど、メガクルーザーとしてなら新型の方が明らかに乗り味が濃い。

抑制の効いたシャーシの仕立てともバッチリあってて、「ああ~~、トロけるぅ~~」って快感を全身全霊で味わえます。やっぱね。クルーザーで大事なのは、ステイしたときのトロケ感ですよね。ハーレーのダイナさんも、定速走行でのトロけ感がありますが、これがとても大事だと思うんですよ。何の変哲もない直線を、安心感を与えながら、ダラダラと長時間気持ちよく走らせる。ライダーは景色と空見ながらぼーっとしてりゃいいんです。イージーライダー風に言えば「ダラダラ乗ってるとマリファナ吸ってるみたいにトリップできる」それがメガクルーザーの世界なんですね。

雑誌の記事で、よく峠を走ってどうのこうの・・なんていうインプレありますが、ことメガクルーザーに関しては峠をどんなに速く走れても、採点基準で大きな割合を締めることないと思う。だってそれは言い換えると「シゴいた時に楽しい」ってことです。でもメガクルーザーって「頑張ってない領域の楽しさ」を作り込むべきバイクなんです。そのための大排気量と超重量でしょう?大怪獣に殴る蹴るなんて細かい芸当はいらないんですよ。

SC79とSC68-2
(F6Bは外見イケイケのヤンキー女子でしたが、お付き合いしてみると、性格は真面目で器量よしの大和撫子でした。一方、SC79は外見はスマートなインテリ風ですが、乗るとアメリカ人みたいにグイグイ胸押しつけてアプローチしてくる感じです。これ、どっち好きかって乗り手の性格によると思うけど、メガクルーザーとしては後者の方がキャラが立ってるんです。)

新型のきんつば嬢はまさに「大排気量6気筒エンジン搭載のメガクルーザーの快楽ここにあり」っていうバイクになってます。メガクルーザーはどうあるべきか?という根本的な考察部分で、F6Bより深くなったと思う。F6Bは巨大な水平対向6気筒をバイクに押し込んで、全方向にバランス良く仕立てたバイクでした。そういう意味ではメガクルーザーというより、「CB400SFの巨大版」だったとも言える。操安を徹底的に煮詰めた結果、ホンダらしくスッキリ爽やかでなんとも素晴らしい乗り味になっていた。ホントこれどうなってんの?と唸っちゃうような名作だと思います。

一方、SC79は水平対向6気筒もつアドバンテージをさらに追求し、SC79に「極低速走行での滋味」「楽ちんすぎる高速巡航」「ストレスのない日常使用」を与えた。切り捨てるものは切り捨てて、高レベルでそれを達成したわけですね。

旧型から失ったモノもあるし、F6Bに比べると価格がCB400SF1台分違うんで、「良くなってるのは当たり前だろ?」ってところもあるから、諸手を挙げて賞賛するわけではありませんが、新型がもつ最新鋭の低フリクション6気筒とダブルウィッシュボーンサスが手を組んだ巡航時の甘さは、まさに「メガクルーザーの王道を行く」もの。とにかくF6Bより圧倒的に疲れない。本質的なところで、「ちゃんとメガクルーザーを理解してるなぁ・・」と感じるんです。だから、SC79は高いですけど、SC68から追い金を払って乗り換えるだけの価値があると私は思います。ええ、クソ高いですけど。(大事なことなので2回言いました。)

最後になりますが、新型に乗って改めて感じるのは、「やっぱF6Bは偉大だったな・・」っていうことです。だって1年経っても、私はF6Bのことを鮮明に思い出せる。F6Bの凄さは、なにより

「自分のバイク史に残るような圧倒的なお買い得車だった」

ってことでしょう。支払った対価に対する満足度が異常に高かったんですよ。その点では新型だってかなわない。このご時世に200万円を切るプライスで水平対向6気筒を売ってたってのはマジでおかしいことだったんじゃないかと。お安くするために機能を削った部分も多かったけど、至れり尽くせりのきんつば嬢に対し、「F6Bって硬派でストイックだったな・・」って逆に思っちゃいますからね。

確かに乗るのに度胸がいるバイクで敷居は高かったけど、回して楽しい水平対向6気筒でしたんで、スポーツライクに乗ろうとしたら、F6Bの方が満足できると思う。(新型のスポーツモード嫌いだから、余計そういう意見になるのかもしれないですが・・。)今もって中古市場でイチオシのバイクであることは変わりない。ホント、F6Bのこと書いてると懐かしさで胸が一杯になる。それくらい離れがたいバイクだったですね。今回のブログのシメにあたり、その点は強調しておきたいです。

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(かつての私の相棒、ゴールドウィングF6B。なにもかもが懐かしい。はぁ~、好き。今は新しいオーナーの下で元気に走ってるんでしょうか・・。)