「カシャカシャカシャ・・・」

・・・ズレていた全てのピースが音を立てて綺麗にハマっていく・・・

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新型ゴールドウィングSC79(愛称きんつばさん)の走行距離は現在7500㎞。2回目のオイル交換も終了し、「ナラシは9割方終わったかな・・」と感じています。

私がバイクで重視してるのはスピードやパワーよりもまず、乗ったときの気持ちよさとナチュラル感です。スピードやパワーは刺激としてはいいんですが、これまでいろんなバイクに乗ってきたんで、パワーに関してはどんなバイクでもあまり驚きはしなくなった。

公道バイクはいくら速くてもレーサーのようなトンデモ加速はしませんし、日本の公道で気持ちよく走るだけなら、今さら過度のパワーにこだわる必要は全然ない。大型ならどんなバイクでも公道では十分以上に速いんだから。速さに対するコダワリを失う一方で、年齢と共に操作系やフィーリングに対するコダワリはどんどん強くなっています。

私がF6Bが好きだったのは、あれだけ巨大で特殊なエンジン積んで、ステアリング軸が遠くにあって、メチャクチャ車体長くて、バカみたいに重いのに操作が極めて自然だったからです。あれだけの巨体を自由自在に振り回せて動的質感も高いってのは、スピードとはまた違った驚きとドライビングプレジャーがあるんです。

で、新型のSC79ですが、初めはいろんなところで不協和音がしてました。でも、距離を走るに従って初期の違和感は少しずつなくなっていった。今では新車時に比べて、各部の動作がかなり馴染んできてると思います。

しかし、このような状況になっても自分の中で違和感がどうしても消えない。クラッチつないでアクセル開けた時に僅かですが応答遅れを感じる、綺麗に繋がらないんですよ。低速トルクは凄く太いんですが、トルクの厚みに対してレスポンスが体感でほんの僅かに遅れる気がする。(スポーツモードはレスポンスが異常に良いですが、あれはやり過ぎだから除外します。)交差点を曲がったときも、峠で開けた時も、なーんか微妙にしっくりこない。

重量級のバイクって乗り手がいくら頑張ったって力で振り回すことなんてできないんで、バイクの機動はアクセルでやるんです。だからアクセルレスポンスとシャーシの躾があってないと、気持ちよくバイクが動かないんですね。「ナラシが終わったら、この違和感は消えるのかな・・」なんて思ってましたが、やっぱダメでしたね。

「これが仕様です」といわれればその程度なのかもしれませんが、そういう繊細な部分を大事にしないと、こだわって水平対向6気筒を購入した意味がありません。「・・おかしい、こんなわけない・・」というハテナマークを抱えながら、これまでずっと走ってたんです。

「それ、アンタがクラッチつなぐの下手だからでしょ?」

っていう意見もあるんでしょうが、私の中にはこれまでのバイク人生で積み上げられた「自分の中の常識」ってのがある。上手かろうが下手だろうが、人にどう言われようが、その常識で測ったものが私にとっての正義なんです。そして、私の中の常識的感覚に対して違和感があると、乗ってるバイクの興を大いに削ぐことになるんですね。

つーか、これじゃマニュアル買った意味ないじゃん!!

私は操安ではホンダを信用してますから、「これが仕様のはずはない。いつかはなんとかなる。」ずっとそう思ってきました。でも現状、ナラシによってその違和感が消える見込みはほぼないといっていい。

となると、答えは一つしかありません。私の所有するきんつばが「そもそも本調子じゃない」ってことです。なぜ本調子じゃないのか?主戦場のアメリカや欧州じゃ絶好調のはずなんですよ。そこでちゃんと動作しないとホンダのフラッグシップとしてのメンツは丸つぶれですから。

だから私は考えた。「日本仕様はキバ抜かれてるんじゃないか」と。じゃあ日本とアメリカで何が違うのか?ハーレーのダイナでは、その原因は「日本の過酷な排ガス規制」でした。

私が購入したダイナは日本独自の排ガス規制に対応するため、サイレンサー出口をクッソ絞り、燃調に理論空燃費を並べてました。要は「吸わず燃やさず」というセッティング。発熱するエンジンのノッキング対策に点火時期も遅らせた結果、低速に全く潤いがなくスッカスカのフィーリングになってしまっていたんです。私のダイナはこれを本来の姿に戻すために、吸排気系を変更し、ダイノジェットパワービジョンで燃調を僅かに濃くしつつ、低速域の点火時期を進角させ、実用域のトルクをあるべき姿に戻すという面倒くさい作業を行っています。

一方、きんつばのモデルチェンジは2018年。日本の排ガス規制はこの時点で既にユーロ4基準に統一されてる。だからもう日本だけ排気系が絞られてたり、混合気が薄くなってるってことはないはず。じゃあ何が違うのか?おそらく点火時期です。

点火時期が遅いから、本来のレスポンスとパワーが間引きされてると結論づけた。じゃあ点火が遅れてる原因は?思いつく理由はもう一つしかありません。

「ガソリンがレギュラーだから」

日本のカタログでは新型はレギュラー仕様になってますが、このバイクは「ハイオクで本領発揮するように作られている」のではないだろうか?ハイオク前提でセッティングされてるバイクにレギュラー入れれば、ECUが安全マージンとって点火時期を大幅に遅らせるはずですから、多少なりともパワーダウンするはずです。それなら試しにダメ元でハイオクを入れて見ようってことで、ハイオクをぶち込んだわけですよ。その結果・・・。

「おおおおお!!これまで感じていた違和感が消えたぁぁあぁあああああ!!!」

なにこれ?なんなの?低速のレスポンスと分厚さが「こんの野郎!!明らかにこれが本調子だろ!!」っていうレベルにかさ上げされてる。私がハーレーに施したチューニングと同じような効果がハイオク入れただけで出ちゃってる。

あ゛ーーーっ!なんでこれに今まで気づかなかったのか!!

ガソリンのオクタン価を検知したECUが点火時期を進角させたのでしょう、明らかにエンジン内部の爆発力が上がってる。アクセル開けた時の反応も良くなったんで、シフトチェンジの回転あわせの違和感も消えた。交差点や低速コーナーでもこれまで以上に車体を安心してダイナミックに操れる。もう、ズレてたピースが全部カチャカチャとハマってく感じで背筋がゾクゾクしてくる。

今まで5速で巡航していたところを6速でフツーに巡航できるし、エンジンの燃焼フィールに潤いが出ちゃって、きめ細かでしっとりしてる感じです。きんつばって5速と6速のギア比が相当離れてるんですが、それを考慮するとエンジンのトルクアップはかなりのレベルですよ。

本来ハイオクで本領を発揮するエンジンにレギュラーを入れることの問題点が浮き彫りになった感じです。ホンダがSC79の指定ガソリンをレギュラーにしてあるのは、「レギュラーでもメーカー保証しますよってだけなんじゃね?」と思う。

きんつば主張4
(これがバイクのホンネでしょう。キャブにフルトラ点火の頃と違い、緻密な燃料噴射と点火制御でクリーンなパワーを実現してる現在のバイクは条件を整えないとバランスが大きく崩れてしまう。)

じゃあ、なんでハイオクとレギュラーでこんなに違うのか?っていうと、オクタン価低いガソリンって、すぐ爆発する爆弾みたいなもんなんですね。

オットーサイクルのエンジンでは、正しい燃焼は点火プラグの周辺から爆発が波のように伝播して緻密に広がっていくのが理想。でも、オクタン価低いガソリン入れたり高圧縮による発熱で混合気が燃えやすくなっちゃうと、理想どおり燃えていってくれないんですよ。タメがなくって一気にドカンといっちゃうんです。これがいわゆる不整着火、ノッキングという奴です。

本来ドミノが倒れるように緻密に端から燃えていかなきゃいけないのに、混合気に粘りがないから、点火した瞬間大爆発ってことになる。これじゃエンジンがヤバいわけです。で、このリスクを避けるために、オクタン価低いガソリンが入ると、賢いECUちゃんが点火時期を遅らせる。ピストンが下がってきて圧縮がある程度低下し、不整爆発が出ず、安全マージンが十分取れるところで点火が入るように調整するんです。圧縮が高いところをわざわざ回避して点火してるわけですから、本来の力が出てくるはずがございません。

特にSC79は極低回転重視のセッティングになってるので、低回転で有効圧縮が高くなり、パワーが出るように作り込んでると思うんです。その中では「高オクタン」っていうのが、極めて重要な要素になってると思うんですよね。その一角が崩れちゃうことによって、最大の売りの低速域で本領を発揮できてないのがレギュラー入れた状態なんでしょう。

DCT仕様ならシフトスケジュールごと見直して、パワーダウンしても上手く変速するのかもしれませんが、マニュアルミッションでレスポンスが削られちゃうと、変速時に人がそれにあわせなきゃなりません。SC79が日本でマニュアル販売をやめたのも、「レギュラーガソリンじゃマニュアルミッションとのマッチングの違和感を解消できないからじゃないのか?」と考えるところもある。

ちなみにF6Bはどうだったの?あれはレギュラーで大丈夫だったの?っておっしゃる方もいると思う。でも、F6Bは日本独自の排ガス規制があった頃のバイクですから。日本の排ガス規制に対応するために日本だけの特注仕様をわざわざ作ってたんです。だから、レギュラーでも違和感なく走るように調整されていたんだと思う。

でもSC79はもはや「日本だけの特別仕様を作ってない」はずなんです。日本の規制がユーロ基準と同様になった新型ではマフラーも吸気系も全て海外製と同じ仕様のはず。そこにアメリカや欧州で想定されてないレギュラーをぶち込んじゃうといろんなつじつまが合わなくなるってのは容易に想像できる。

ということで、ハイオクという美味しいドリンクをガブ飲みしはじめた私のSC79は絶好調なんです。

「あっはははは!!どうですオーナー!!これが私の本来の姿なんですよぉ!」

「ぶっはーーー!最高だな!!!」

って大盛り上がりの走りを見せつけてくれています。DCTで乗ってる皆様方も試しにハイオク入れてみて下さい。これだけトルクとレスポンスが変わると、シフトスケジュールからナニから一気に変わるんじゃないかなぁ・・。

これから、全世界が統一仕様でバイクを作るようになると、日本のレギュラーガソリン環境っていうのはバイクのフィーリングにとって大きな足かせになるんじゃないかと思う。

ハイオクを入れるのかレギュラーのままで良いのか?グローバルでワールドワイドな仕様に統一されていく中で、日本独自の特殊事情はバイクに大きな影響を与えかねない。ガラパゴスが損をするのは、他の業界でも当たり前に生じている現象です。そんな中、バイク乗りもカタログ表記をアテにすることなく、バイクが気持ちよく走れる環境を検証していく必要があるのかもしれませんね。

ということで、新型ゴールドウィングのドーピング方法は「給油の際、赤いノズルから黄色のノズルに変えるだけ」。それだけで低速のトルクアップが実現する。安心・安全・簡単・低廉で効果は抜群。超オススメです。