ディーラー情報によりますと、2021年モデルのゴールドウィングは既に買えなくなっちゃってるようですね。5月で受注締め切り?は??どういうこと?

2021年モデルは今年の2月25日に発表されたんですが、5月10日をもって早々に受注を打ち切ったってことですので、実質2ヶ月半程度しか販売していないことになります。「夏場にボーナス待って買おうかなぁ・・」なんて考えてた人は購入機会さえ与えられないってことになってしまいましたね。

受注停止の理由は国内向けの「年産500台を5月10日の時点で売り切っちゃいましたぁ♡」ということらしいですが、実質500台の年間生産分が僅か2ヶ月程度で売り切れてしまうってのも凄まじい。だって、このバイクの価格ってとんでもなくイカツいじゃないですか。ライバル達が日本に入ってこないってこともあると思いますが、やっぱりバイクって売れてるんだなぁとしみじみ感じます。

それにしたって2ヶ月で受注停止は儲ける気がなくってビックリ。「もう絶好調じゃん。もっと販売枠を広げて大根のようにジャンジャン売ったらどうなの?」ってフツーは考える。商品ってのは売れるタイミングを逃さずに徹底的に売るっていうのがセオリーですから。コロナで部品入ってこないにしても受注だけはしとけば良いのに・・なんて思うわけですよ。

しかし現実は、あっさり受注停止。ミもフタもありません。でもこういう扱いはゴールドウィングというバイクの立ち位置を如実に表していると思うんですよ。

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(ゴールデンウィーク明けに早くも受注停止とは・・・。バイクの季節はさぁこれから!って時期には既にカタログから消えているというとんでもなさ。これは笑うところなのか??)

ぶっちゃけホンダとしては「ゴールドウイングをたくさん作って儲けるつもりは毛ほどもございません」ってことなんでしょう。ゴールドウィングはホンダのフラッグシップですが、一方で他のバイクの生産を邪魔しない程度で売っていけば十分っていう商品なんだと思うんです。数を売ろうとして強気で部品発注をし、スカを食らって部品が余った場合にどうしようもないのがゴールドウィングなんで、見込み発注での過剰在庫を避ける意味でも、年間の国内販売割り当てを確実に売れる台数に絞ってると考えられます。販売単価から我々が想像するほど儲かる商品じゃないことはもはや明らか。

 基本的に生産数が多い大メーカーの商品は、下記の3つに大別できます。

1.一定程度利幅がとれて生産性も高い戦略商品。販売面では一番力を入れるべきモデル。

2.たとえ利益が薄くても、生産稼働率の維持、組織の維持、技術力の維持を図るために、作り続け、売っていく必要のあるモデル。

3.企業の技術力やブランドイメージの向上、ライバルメーカーとの差別化、上顧客のつなぎ止め等を狙って企画される儲け度外視のモデル。基本売る気がない。


ゴールドウィングは現状では完全に3にカテゴライズされる商品だと思う。生産工程見てても、工業用ロボットによる組み上げが主流のこの時代に、工程の多くに手組みを入れてる。非常に効率が悪くコスト高。つまり儲からない。

ホンダにとってはゴールドウィングは生産性が低く、利益が薄くて、ちょっとでも販売予想を見誤ると、あっという間に発注した部品コスト分の赤字が出ちゃう「スジワルの商品」なんですね。それはゴールドウィングの周囲をぐるっと一回りすればすぐわかる。このバイクは専用設計の部品があまりにも多すぎ。だから「部品発注したけど売れなかったんで、他のバイクに回しましょう!」ってことがほとんどできない。

ハーレーなんかはノーマルモデルをベースにエンジン周りのチューニングを施し、デコれるところは徹底的にデコり、塗装品質を上げ、取り付られたパーツや外装クオリティで差別化することによりハイエンド商品を作ってます。CVOなんかはこの典型ですね。

だから、車体構成はそんな大きく変わらないけど、外見はビックリするほど豪華。ものすごく目立つし、見ただけで格好よくてきらびやかで、説得力がある。量販モデルと可能な限り部品共用されてるから生産性も高い。逆にいうと、威厳やステータスさえ求めなければ下位モデルで代用可能ということでもあります。

レクサスなんかもそう。「トヨタと基本的に部品同じじゃん、トヨタでいいじゃん」って意見があります。でも高級品の重要な要件の一つは「高級に見えること」なんですよね。だからレクサスはトヨタをベースにそれをあざとく徹底的にやっている。「高級に見えないものは高級品ではない」っていう単純明快な考え方をして、店舗にしてもなんにしても、そこをしっかりやろうとしてるんです。多くのカーマニアはそれに納得できないようですが、高級クラブだって場末の居酒屋だってビール頼めば同じスーパードライが出てくる。じゃあ何が違うか?っていえば演出ですよ。それを馬鹿にしてるようでは高級品商売はできないんです。

オタクが何を言おうが「外見や雰囲気が豪華で贅沢」というのは高級品購買層の購入動機の本質を突いているんですね。こういう欧米型の高級品の価値観に対して、ゴールドウィングって「日本人の考える典型的な高級品」なんです。日本人って派手なものとか目立つもの、権威を前面に出したものを作るのが上手くない。高級品であれば価格が上がるほど豪華にならなきゃいけないはずなんですけど、デザインだって全然ギラギラしてないし、相変わらず無難な白が人気。カラーリングでいろいろ攻められるはずの箱なしだって、欧州仕様はオレンジ使いのウルトラ警備隊みたいな色があるけど、日本販売はクッソ地味な黒と銀のみです。

ハーレーみたいなわかりやすい高級品の定義に慣れてきた日本人が、SC79見て「先代のゴールドウィングの方が押し出し強くて良いじゃん!新型ショッッッボ!!」っていう意見が出てくるのは実にごもっともでしょう。でもゴールドウィングはそういう商品じゃないんですね。

日本のハイエンドな高級品の概念って昔から豪華さじゃない。日本の高級品の概念は、特別な仕立てを施したもの。つまり「クラフトマンシップを投入した特注品」になるんです。車でいうとセンチュリー。あれが典型ですね。バイクに300万円超を払う頭イッテるホンダファンのために、とにかく金に糸目をつけずに、「専用設計のお品を特注でご提供します」ってのが、昔から続くゴールドウィングの在り方なんだろうと思うんです。そういう意味では量販べースをデコっていってるハーレーのCVOとは出発点がハナから違う。

また、ゴールドウィングはホンダの開発力と生産技術とハードパワーと企業体力をライバルメーカーに見せつけるための威嚇商品の役割も担っている。勝負の土俵から相手を叩き出すには、相手が勝負してこれないほどのチップをテーブルにベットすればいいわけで、そこを利益度外視でやってるのがゴールドウィングってバイクなんです。

「ああ、ホンダさんのゴールドウィングですか・・今時6気筒にDCTで前進後退?で、フロントがダブルウィッシュボーン??・・で、目標販売台数は?・・はぁぁぁあああ?これじゃどー考えても赤字でしょ?いやはや、うちはしがないバイクメーカーなんで・・くわばらくわばら・・」

というボヤキを他メーカーの技術者から引き出したいがための商品なんですよ。だから売れるとか売れないとか、生産性が良いとか悪いとかそんなことは二の次なんです。「俺たちのフラッグシップ凝りスギィィィイイイ!!ホンダ最強ォォオオオ!!」っていう中二病精神をモータースポーツの場ではなく、売り物でやっちゃってる。このバイクはホンダが圧倒的な企業体力を利用して他メーカーにマウントするために作った「実に大人げない商品」ですね。

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(完全にナメ腐ったイラストですが、金工面して「さぁ買おう」とした時に売り切れってのは、欲しい人にとってはこの上なくイラッとするシチュエーションのはず。もう少しなんとかならんのでしょうか?)

はっきり言っときますと、この手の特注商品が最高のものか?っていうと、そういうもんでもありませんから。好き勝手やれて、販売数も特段考えなくてもいいものって、技術先行になりがちなんです。そのため、乗り手を置き去りにすることも往々にしてあるし、投入された新技術は時間と共にこなれてどんどん良くなるから、買い時が難しいところもある。初期型はユニコーンガンダムみたいなプロトタイプに近いんで、乗り手がそれを理解して購入するところも必要だと思うんですよ。最後期モデルだったF6Bは熟成しきって感動するほど素晴らしいバランスでしたが、新型はまだ初期ものですから熟成度という点でみれば、「プロトタイプ感」を感じる部分はあります。

でも、こういう感覚こそが特注モデルの証でもあり醍醐味ともいえる。ジャンキーになって今さらもう普通のバイクには乗れないんで、そういう特殊なものを楽しんでいこうという一部の人たちに向けたプロダクトなんですね。

だから、ゴールドウィングが欲しければゴールドウィング買うしかない。特注品のこのバイクには親戚というものがない。なにかの上位互換とか発展系とかいうバイクではないんです。ハーレーはバイクではなくハーレーという乗り物である。っていう名言がありますが、ゴールドウィングこそ、まさにそんな乗り物ではないか?と思ったりする。

世界一の生産数を誇り、最も効率よくバイクを大量生産するホンダが作る、極めて非効率で儲からないフラッグシップ。それがゴールドウィングの正体です。ゴールドウィングはフラッグシップの地位を利用して技術者のワガママをこれでもかと詰め込んで我が道を突き進んでる。

そんなコンセプトだから、ホンダも沢山作って儲けるつもりなんてない。生産ラインの効率から考えたら、ぶっちゃけ迷惑なお荷物商品なんで、ホンダのメンツが維持できる程度に売れていればいい。フラッグシップとして紙面を飾り、他メーカーにホンダの企業体力を誇示しつつ、ホンダファンのアガリの終着駅になってくれればそれで十分なんです。だから年産500台の殿様商売なんですね。「買えなかった人はお気の毒。来年まで待ってどうぞ。」って強気の姿勢でホンダ的には全然問題がないんです。

一つ心配なのは、500台が2か月であっさり売り切れてしまうってことになると、今後の価格上昇圧力が凄くなるんじゃないか?ってことです。2021年モデルでMTをやめたのも、タダでさえ儲からないのに安くて数が出ないお買い得モデルなんて廃止して、より高価格帯にシフトしようってことでしょう。

「あと20万円くらい乗せても売れるでしょ?利益が出ない穀潰しバイクが安売りしすぎなのよっ!ハーレーのウルトラリミテッドよりまだ安いんでしょ??バカじゃないの?あれ2気筒じゃない!こっちは6気筒よ!!2021年モデルは完売まで一瞬だったでしょ!上げましょ価格。ドーンと!」

なんて言いつつ、三角メガネかけた経理監査部のお姉さんが販売資料振り回しながらやってきそう。2022年モデルはレーダー搭載して前車追従型のオートクルーズがつくんじゃないか?などといわれていますが、付加価値の高い機能が搭載される以上、間違いなく価格を上げてくるはず。問題はその上がり幅ですが、ちょっと心配ですねぇ・・。

まぁ、いずれにせよ、ゴールドウィングはホンダにとって特別な商品ですから、通常モデルの常識は通じない。ハイプライスで売り切れ御免の殿様商売の姿勢は変わらないでしょう。欲しい方は2022年モデルが発表されたら、とりあえず発注した方がいいかもしれませんね。