先日金沢に新しくできたホンダドリームに行って参りました。昨年新型ゴールドウィングを試乗するために長野の松本まで往復500㎞を走破する羽目になったのですが、ようやく県内にホンダドリームができたということで、環境的にはホンダ車の購入に特段の支障はなくなったわけです。

20200829_144511
(ようやく近場にホンダの正規店ができて、ホンダの400cc以上が現実的選択肢になったわけですが、これが当たり前で今までが異常だっただけ。)

ハッキリ言ってゴールドウイングというバイクは他のメーカーには直接競合するライバルはいないので、あの系統が好きな人は新型しか選択肢がない。「同じ6気筒ならBMWのK1600があるじゃろ?」という指摘もあるかと思いますが、同じ6気筒でもあっちは直6で、排気量もバイクのキャラクターも違いますからね。

エンジン回せばBMWの方が断然パワーあると思うんですけど、低回転メインで走るんだったら、6気筒はトルク稼ぎに排気量がどうしても必要になる。車両重量がクッソ重いところもってきて、フリクションによる低回転でのパワーロスが大きいですから。

6気筒のスムースさを生かして2000~3000回転くらい使ってダル~ンと乗るんなら、まず低速トルクが欲しいんですけど、K1600は160馬力出して、時速250キロ位は出せるように仕立てた高速ツアラーですから、ショートストロークで中高回転にキャラクターを振ってます。

一方ゴールドウイングは排気量200cc多いのに加え、パワーでは無理せず、ボア×ストロークをスクエアにして低中回転でのトルクを重視してるわけです。私は巨大バイクで近場の舗装林道ばかり走る頭おかしい奴ですから、K1600は私の乗り方じゃ本領を発揮できないと思うんです。なんせ遠出しませんからね(笑)。

あと直6ってやっぱり安定志向なんですよ。昔乗ってたZ1300(インジェクション仕様)はクランクシャフトが長くってジャイロ効果が強かったから、直進方向にビターッと安定するんですよね。高速をずーっとハイアベレージで走るんならそっちの方がいいんです。安定してて振動もないからメチャ楽ちん。

このZ1300のエンジンが忘れられず、「もう一回6気筒に戻ろう」ってゴールドウィング乗ってみたら、メチャメチャ軽快にバンクするんで、「6気筒なのにこんなに寝ちゃうの??水平対向スゲぇ!」と感心したわけですよ。で、ほとんど高速乗らずに山道ばっかり走ってるという本末転倒なオチになってる。

20200829_152307
(ホンダドリーム金沢の凄いところは、決して広くない店内にゴールドウィングのツアーが2台もあるところ。)

こういう特殊なエンジンっていうのは、ある特定の用途のために存在するのが一般的なんです。でもゴールドウィングはこの巨大な6気筒をあらゆるシュチュエーションに対応させようと進化させ続けてきた。旧モデルのSC47が登場したとき、「これはNSR1800だ!」って言われたりしましたが、あの車重で、そんな表現がされるくらい曲がっちゃうってのは凄いことです。

水平対向レイアウトは低重心に加え、クランクシャフトの向きが縦になるから直進方向のジャイロが発生しないという特徴がある。これにより車重詐欺と呼べるようなヒラヒラ感を実現できるわけなんですね。

20200829_152316
(黒の車体を後ろから。店内でゆっくり見回すと、さすがフラッグシップ。細部の質感は高いです。)

でも特殊なエンジンを搭載してそれを突き詰めていくなんて、普通はやんない。特殊なモノって部品共用ができないから、無駄が多すぎるんです。「バカなの??こんなのいくら売っても開発費とトントンになっちゃうでしょ?」っていう社内の財務担当の声に押されて、突き抜けたことができなくなるんですよ。

そんな圧力を押し切って、水平対向6気筒を延々作り続けているのは、「ホンダのフラッグシップとしてのメンツ」「ホンダの最強厨のあらわれ」以外の何ものでもない。

当然、今回のモデルチェンジも気合の入りようは半端ない。DCTやら前進後退機構やら、フロントダブルウィッシュボーンやら、ユニカム入れてコンパクト化した新規開発エンジンやら、このモデルのためだけに開発した装備がてんこ盛り。

20200829_152325
(こちらはホワイト。定番カラー。オプション諸々のっけてくと乗り出し400万円近くになる。商談方法もとりあえず全部盛りの見積り出して、そこからいらないものを引いていくというとんでもなさ。これもゴールドウィングならではだと思う。)

こんな大量の新設計機構をコンパクトな車体に次々に押し込んで冒険していくってのは、「とりあえず資金回収は二の次で、いくとこまでいく」という攻めの姿勢がないとできない。なぜそんなことができるのか?「資金回収できるまでモデルチェンジせず売り続ける」からです。モデルチェンジなんて10年以上のスパンでいいんですから。

短期で消費される商品が多い中で、長期回収を考えられるプロダクトなんて普通ない。売れないバイクはラインナップ整理で基本ディスコンです。だから多くのバイクがリスクヘッジのためにコストを抑え、共用設計を選択し、賢く低リスクでバイクを作ろうとするんです。でも、ゴールドウイングはそれをハナから否定するような高コスト専用設計。新型は旧型に対して小さくなった、不便になったといわれているけど、コンパクトにできたのは、まるっと全てを新規設計してるからです。

20200829_152400
(こうやって眺めてみると、ゴールドウィングの対抗馬がなかなか出てこない理由がわかる。もし企画したとしても、採算が合わない。赤字垂れ流した上に、ゴールドウィングの噛ませ犬になるんじゃどうしようもない。)

ゴールドウィングなんて、モビルスーツの量産数が戦況を左右する中で、せっせとサイコガンダムやビグザム作ってるようなもんですよ。商売ってもののキモは「高額商品をいかに安く作るか」なんですが、その常識を放り投げちゃってる。BMWのK1600なんかは、構成部品を可能な限り他のモデルと流用してて「賢く利益出してるねぇ」と感心する。そういう意味では利益の最大化をちゃんと考慮したバイクなんです。

一方、ゴールドウィングは見た瞬間に、「あ、コレおかしい。」と感じてしまう。だって共用部品がほとんどないんだもの。普通はこんなの社内稟議通りませんよ。「なんであるもの使って作らねえんだ!」って鬼の経理部が怒鳴り込んできますから。

他メーカーの開発者でゴールドウィングをうらやましがる人はいても、けなす人ってみたことない。それくらい技術者にとってワガママ放題の贅沢なプロダクトです。

ゴールドウィングは量産前提の商品が決して逃れることができない「生産効率という名のセフィロトの樹」から切り離され、別枠扱いにされてます。良いか悪いかはとりあえず置いておいて、それが他のライバル達とゴールドウィングとの一番の違いだと私は感じてます。

そんな新型が発売されてからはや2年、見方が変わったか?馴染んできたか?っていうと、まぁ外観について見慣れてきたことは間違いない。

最初に見た新型ならではの違和感ってのはなくなって、自分の中でゴールドウィングとしてそれなりに認知は進んでる。でも、バイクに対する評価は初期の頃と特段変わってはいないです。

今乗ってるSC68に対して良いところもあれば悪いところもある。良いところの方が多いことは間違いないんですが、その良いところが私にはまだ響いてきてない。

技術力は確かに凄い。エンジニアがよってたかって最高のものを作ろうとしたってのも良くわかる。だからこそ私みたいな貧乏性の人間は「もう少し時間がかかるんじゃないかな」と考えたりする。

エンジニアの自由にやらせると、とにかく新しいものを入れたがるから技術先行になる。新しいものを提案することがエンジニアの仕事の一つですから、どんどん新技術を盛り込んでくるのは当然です。常に新たなイノベーションを創作しないと、技術者の存在価値がないんです。それをやりたい放題やれるのがゴールドウィングの真骨頂なんだから。

しかし、新しい技術が馴染んで本領を発揮するには、やっぱりそれなりの時間がいるんです。フツーは盛り込んだ新機構の信頼性確保にあれこれやってるだけで開発スケジュールがギリギリになっちゃうんですよ。

少なくとも商品として出す以上、最低限の品質保証ができなきゃリコールや民事賠償で火だるまになりかねない。ゴールドウィングみたいに上から下まで完全新規開発ってバイクは、販売までにとりあえず品質方面をがっちり固めておいて、乗り味の追い込みや熟成は後回しにならざるを得ないんです。これはホンダの怠慢じゃなく、欧州車なんて昔からこのやり方だし、ハーレーだって毎年のように改良してる。バイクが複雑で高機能になればなるほど、乗り味の作り込みはイヤーモデルでコツコツやってくしかないんですね。

だから、この手のバイクは年を重ねる毎に「動作がより自然になり、滋味が増してくる」ってことになるんです。それが完全に煮詰まったとき、最新技術はフラッグシップを最高の乗り物に昇華してくれる。

だから私は、腕組みをして鍋のフタをじーっと見ながら、その味が染みこむのを待ってるってわけです。

また、技術者の見据えてる理想が我々の理想と一致するとは限らないって点も大きい。ホンダがゴールドウィングのモデルライフを10年と考えてるとすると、設計陣は10年後の未来を見据えてることになる。しかしバイク乗りが夢見る未来はせいぜい5年。そこにいささかのギャップが生まれます。そのギャップが埋まるまではSC68に留まる人も多いと思うんですよ。

それにしてもSC68の下取りは堅い。ドリームの店長さんに私のF6Bの下取り聞いてみたところ、「このバイク、傷一つないんで、新型GLの下取りなら100万円まで頑張ります!」なんて言われてます。昨年長野の松本で見積もってもらったときも下取り100万円!って言われましたんで、査定全然落ちてないんですよ。

200万円のバイクが初年度登録から8年経っても、まだ下取り100万円つくんですから、値落ちの少なさは凄いとしかいいようがない。私なんて中古乗り出し180万円で買ってますから、フラッグシップをメチャメチャ楽しませてもらって、実質80万円しか値落ちしてないんですよ。もうウマすぎ。外車なら倍以上は落ちてますよ。これは中古になってからの安心感、つまりバイクに対する信頼性がないと絶対つかない価格ですよね。

F6Bドヤ顔
(描き分けができない私の弱点を的確にエグってくる実に腹正しい勝利宣言ですが、ブログのキャラを維持するためにバイク乗りが選択の筋を曲げたりするわけがない(笑)。ゴールドウィングより刺さるバイクがあれば、落とし穴ボタンで即退場です。)

新しいモデルに乗り換えるときって、旧型に対するモチベーションの下降線と、新型が欲しいというモチベーションの上昇線がクロスして、追い金の価値を超えたときに買い換えってことになるんだと思うんですが、ゴールドウィングは下取り価格でもわかるように旧モデルへ価値とモチベーションが「非常に下がりにくい」バイクなんです。

ハーレーはカスタムしながら自分仕様にしていくから、カスタムが進めば進むほど乗り換えってのができなくなるんですが、ゴールドウィングは素で乗ってるのに完成度が高すぎて、買い換えようという気がおきない

新型が出ていろいろとアピールをしてきても、旧型にもまったく不満がないから、「買い替える理由がさして見当たらない」んですね。だから新型の熟成をのんびり待てるわけです。耐久性も高く、購入した後もあんまり金かかんないという、働きの割に月給がお安い優良メイドで非常に助かる。

そんな私ですらドリーム行って新型見るとうぉーって盛り上がっちゃったりしますが、家に帰って2日ほど経って、自分のバイクにまたがると「いや別にこれでいいんじゃね?」ってあっさり我に返る。

これを繰り返してるうちに、「もう新型でも旧型でもどっちでもいいんじゃないのか?」と面倒くさくなってくる。だって5年後でも10年後でもゴールドウィングというバイクはきっとその座に変わることなく君臨しているはずだから。

ホンダやユーザーにとってゴールドウィングはそういうバイクです。全階級で戦うホンダの中でコイツは消費社会の総本山たるアメリカでヘビー級チャンプを狙うべく特別に企画製造されたファイターなんです。はじめは粗削りでもチャンプをとるまで毎年のように鍛え上げられていく。ヘビー級チャンプを排出してこそ、ボクシングジムは最強になれる

バイクメーカーだって同じです。フラッグシップで頂点に立つことが、数多あるメーカーの頂点に君臨したという証なんです。だからホンダのメンツにかけてこのバイクはディスコンなんてあり得ない。

そんな安心感があるから、なんとなく急ぐ気になれないんでしょう。息の長いバイクってのは、乗り手もなんとなくノンビリとさせる。そこら辺も気に入ってるところかもしれませんね。