「うーーーん。これは・・ダメじゃね??」

これが納車されたザラブ嬢(ストリートトリプル)をいつもの峠に持ち込んだときの第一印象でした。正直イマイチどころか、イマサンくらいの低評価。

納車された直後は、新たに手にしたバイクの個性に浸りながら、ゆったり楽しく流しておりましたが、慣らしも中盤になり、いつものダム横の山道に持ち込んでちょろっとシゴいてみたら、いろいろと問題点が出てきました。

問題はそれが「気になるレベル」を超えて、「こりゃちとおかしいんじゃないの??」っていうところまで達してるところ。

具体的にはバンクさせようとした時に、自分が思っている感覚よりワンテンポくらい速く車体が反応しちゃうんです。表現が難しいんですが、殺し屋に睨まれてる一般人みたいな感じ。

こっちが「さぁ、行くか・・」ってアクション起こそうとするとバイクがビクビク反応するもんだから、落ち着いてライディングすることができない。

ストリートトリプルといえば、ストリートファイターの元祖ともいえるモデルで、最も熟成が進んでるはず・・と期待してたのに、これじゃまるでプロトタイプ。てんで落ち着きがありません。

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(このザラブ嬢の主張はあながち間違っていないのがツライ。私の過去の経歴はまさにバイク版「ナチュラルボーン・キラー」、事故廃車率(修理費が中古価格を超えたもの)がイチローの生涯打率超えてますからね。)

「いや、それはアンタがクソ重くて鈍重なバイクばっかりのってるから感覚がおかしくなってんでしょ?」と皆さん思われるかもしれませんが、それはちょっとばかし違う。確かに感性が鈍いのは認める。しかし、重いバイクが操縦性まで鈍重か?っていうとそうじゃないんです。ダイナやF6Bは確かにゆったりとはしてますが、体感上の操縦性ってのは重いバイクも軽いバイクも基本変わんないんですよ。

これまで50ccから1800ccまで、いろんなバイクを乗り継いできましたが、バイクのポジションやエンジン特性に慣れてしまえば、どんなバイクもフツーに違和感なく乗れる。車だって軽自動車からクラウンに乗り換えても、フツーに運転できるわけです。

それは乗り物の基本的な操縦性が、排気量にかかわらず、誰でも違和感がなく操縦できるよう調整されてるからなんですね。

でも、このザラブ嬢はその枠から外れちゃってる気がする。クセと言うには乗りにくすぎて「くっ、さすが悪質宇宙人、優等生のフリして一筋縄ではいかないな・・」ってつぶやく羽目になってしまったんです。

なんでこんなことが起こるのか??理由は簡単「フルアジャスタブルだから」です。調整機能がなければ、とっちらかりようがないんですが、プリロード、伸側減衰、圧側減衰の全てが調整できるが故に、調整がズレるということが起こりうるわけですよ。調整機構のあるサスは高性能をウリにしてますから、セッティングが出てれば素晴らしいフィーリングになる一方、それがぐちゃぐちゃになると、調整済みの安フォークより確実に酷い

よく雑誌の評価テストに「今回のメーカー貸し出しの試乗車はフロントが切れ込み、街中でも危ないレベルだった。広報車としてはあまりにお粗末といわざるを得ないので、評価なしとする。」なんてクッソ厳しいコメントがあったりしますが、過去の例を見ると、ここまで書かれるのはほとんどが「フルアジャスタブルサスを入れているバイク」なんですよ。

ぶっちゃけ、道の駅でバイク止めてるときに誰かが六角レンチかスパナ持ってきて、「ティヒヒッ、このバイク生意気じゃん、ちょっとイタズラしちゃおっ!ティヒッ。」ってプリロード2回転も回された日にゃ、どんなフラッグシップだって、あっという間にクソバイクに大・変・身

私の経験上、乗っていきなり、「ダメだこりゃ~」っていかりや長介状態になるものって、大概プリロードとか油面がおかしいとか。「え?プリロードなんて二ケツしたり重い荷物載せたときの調整用なんでしょ?ズレてても大したことないんじゃん」っていうイメージがあるかもしれませんが、純正リアサスのプリロードは、どうイジったところで操縦性が破綻するほどの調整範囲がないから、大きな問題にはならないだけです。

フルアジャスタブルのサスは、調整範囲も広く、効果も大きいので、ここハチャメチャになったら、操縦性もどうにもならん状態になる。

今回のザラブ嬢は、マニュアル見ると「リアサスのプリロードは絶対イジらんといて!!オマエら死ぬで!」って書いてありますので、そこは触りようがありません。となると原因はフロント。納車時に赤男爵の店長さんから「一般的な設定にしてありますんで~。」っていわれたけど、単に工場出荷時の設定そのままの可能性が高いんじゃないだろーか。

やってみるだけタダってことで、とりあえずマニュアル見ながら一旦フロントのプリロードをリセットし、左に最も緩めたところから3回転半締めに設定してみました。

結果・・激変。

「うゎあ、、ナニコレ。メチャメチャ乗りやすくなったんだけどっ!」バンク初期でスムーズに倒れるようになって、バンク角が定まったところからギュルギュルギュル~~~って感じで凶悪に曲がってくんですよ。まだちょっとオーバーステア気味だけど、全然マシなところに入ってきた。初期のビクビク状態はどこへやら、これぞストリートファイター。どっしり腰が入った「真空波動拳な乗り味」ですよ。

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(真空波動拳みたいに一瞬の溜めから一気に曲がる。やっぱりこのバイクの格付けからいったら、チョロチョロした走りじゃいけない。なんせ
「MOTO2のベースエンジンを積んだマシン」なんですから。)

赤男爵は「カタナ転倒事件以来、お客さんのバイクに乗るのをやめた」(真偽は不明)と聞き及んでいますが、実走できない+業販では細かいところを詰めるノウハウは蓄えようがないでしょうから、こりゃしょうがないですね。

ただ、私自身はそんな大きな問題だとは思ってない。昔のカワサキにおけるオイル滲みが「エンジンオイルが入っている証明であった」ように、フルアジャスタブルサスの調整ズレは「調整機構がついている証明である」くらいに考えているからです。

フルアジャスタブルサスは「自分の好みのセッティングを出していく」ことが前提なんで、「セッティング出てないじゃん!」ってショップに持ち込んでも「スンマセン、自分でお好きなようにして下さい♡、だってフ・ル・ア・ジ・ャ・ス・タ・ブ・ル・な・ん・だ・か・ら☆」って言われそうで腰が引ける。そこでなお、「なにいってんの?ボクちんに調整スキルなんかあるわけないだろ?助けてドラえもん!!」って開き直れるのは真の天下人。ほとんどの人が「・・じゃあ自分でやってみようかな・・」って小さくなっちゃうと思う。

バイクの本気度が高くなり、イキリ度が高くなるほど、見栄とプライドが邪魔してこの手のお願いができなくなっていくんです。

誰しも「あいつ、最高峰モデル乗ってるけど、自分でサス調整もできないらしいぞ?」「まさに豚に真珠だな・・」って陰で言われたくない。

実態はほとんどのSSが公道では豚に真珠なので、どっちにしろ目クソ鼻クソなんですけどね。人は見栄さえなければもっと楽に生きられるんですが、フルアジャスタブルついてるようなバイク買ってる時点で見栄の塊なわけですから、そこから逃れることなどできようはずもない。

今回のストリートトリプルはマニュアルにベースとなるセッティング範囲がキッチリ書いてあるんで、それを基準に一つ一つのサスの数値を検証すればいいだけなんですが、乗り手がその操縦性のおかしさを明確に把握できないと、違和感を放置したまま「その違和感に合わせていく」という本末転倒なことになりかねない。

乗った感じ変なのは誰でもわかると思うんですよ。ソコらの感性は私より若い人達の方が鋭敏だと思います。後は、その違和感に対して明確に「こりゃダメだ、修正だ」と言い切れるか?ってことでしょう。ここに一つのハードルがありますよね。
 
ビギナーの頃は、「違和感」を感じても、バイクがおかしいのか?自分の感覚がおかしいのか?の判断がつかなくて「バイクが悪いって言い切る自信がない」んです。だからショップに持ち込んでも、「いやいや~こんなもんですよ~」っていなされて「そ、そ、そ、そ、そうですか」って引き下がっちゃうことになる。

ショップの「必殺コンナモンデスヨ」は、相手の自信のなさを的確に見切ってカウンターで繰り出される高等テクニックです。相手はプロなんで、この攻撃はかなり説得力があり、ほとんどの人はこれでマットに沈んじゃう。

その根っこには「バイクが悪いわけじゃなくって、自分の感覚がおかしいのかも・・」って乗り手の疑心暗鬼があるんですよ。だから「こんなもんですよ」って言われてああバイクは悪くないんだ・・って「逆に安心してしまう」んです。だから押し切ることができない。

そこで「んなわけないだろ(笑)」ってツッコむためには、自分の感覚にそれなりの自信が必要になる。で、その基準って私の場合は「過去のバイク達の感触」なんです。

バイクの世界でも頼りになるのは、やっぱ最後は経験で、スタンダードバイクこそが最良の師匠です。私が昔から乗り継いできてる国産バイク達はコストの問題で減衰やプリロードの調節機構を持たないものばかりでしたが、逆に言うと万人が公道で安全に乗れるよう、操縦性の理想を最大公約化して設定済みのものばかりだったわけです。

で、どのメーカーのどのカテゴリのバイクに乗っても、根っこにある安心感は変わんないわけですよ。それだからこそ、正しい操縦性の基準が自分の中に自然にできてくるんです。正しさを知っているから、おかしいことを指摘できるだけで、ソコに何の魔法もない。

もしバイク乗って3年目くらいだったら、「こいつは操縦性がおかしいぞ」なんて絶対指摘できなかったと思う。まだ数台しか乗り継いでなくって、基準がないんだから、評価のしようがない。

フルアジャスタブルサスの功罪は、より良い設定も出せるかわりに、調整機構のないサスより悪くなる可能性もあるってとこです。悪い状態で乗りつづけるとやがて乗り手の基準もおかしくなってしまうかもしれない。それを是正できれば問題ないですが、是正できないと弊害しかないし、メーカー推奨のセッティングに脳死状態で乗るだけなら、調整機構などいらない。乗り手に「バイクを究極の自分仕様に」という強いこだわりや、明確な好みがない場合は、調整機構はより良いライディングの邪魔になるだけなんです。

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(こちらダイナのオーリンズ。フルアジャスタブルなんですが、右と左のサスで伸減衰、圧減衰の役割を分けて調整している簡易型。ダイナのシャーシもあってセッティングは割とおおらかでも大丈夫。)
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(ストリートトリプルのフロントサスはショーワ製、プリロードはアクスルシャフトの上の六角レンチで、伸圧減衰はフォークトップのマイナスネジで調整する。RSは車体を追い込んであるので、サスの調整がモロに挙動に影響します。スイートスポットは正直かなり狭い。取扱説明書のざっくり設定でこんなもんかな~って乗るのもいいですが、乗り手の体重や乗り方ごとに細かく調整すると旋回時の快感がどーん上乗せされ、たまらない乗り味になる。乗り味の好みの明確なオーナーは是非イジってみるべきだと思う。)

だから私は、高額バイクだからとにかくフルアジャスタブルを、いう風潮には疑問を感じてるし、フルアジャスタブルだからいいなんて口が裂けてもいわない。

乗る人の用途によって最適なサスの在り方って変わりますよ。トップグレードは金持ってりゃ誰でも買えちゃいますけど、フルアジャスタブルを調整できるような確固たる自分基準がある人はそう多くない。大事なのは調整技術じゃなく、乗り手の好みや乗り方が定まっていて、評価基準が確立されてることで、これから好みや乗り方を確立していこうという段階なら、調整機構なしのサスの方が断然いいと思うんです。

私はスタンダードにこそ、そのメーカーの良心があるって考えてて、最初の頃はまずはその良心に守られつつ成長していくのが重要だと思ってます。私は過去、いろんなバイク達に育ててもらったから、ようやくサスくらいはいじれるようになったんです。

自己責任の大海原に出て行くのは止めませんが、そのための準備と自己基準を確立してからでないと、ただただ彷徨う放浪者になりかねない。

そんなのはバイクの世界だけじゃなくどんな世界でも同じですよね。仕事だって駆け出しの頃は右も左もわからない。失敗したり苦労したりして経験を積んで、ようやく何が良いのか、何が正しいのかが見えてくるんです。入社していきなりハイレベルな仕事はフツーできませんよ。

仕事ですらそうなのに、バイクなんてのは、他の趣味と比べても圧倒的に難しく、奥が深い底なし沼で命までかかってる。そんな底知れない世界で見栄張って背伸びをしたところで、良いことなんて一つもないと思うんですよね。