>正規店の「顧客の選別」というのも気になります。よければご教示下さいませんか

先日アップしたこちらのブログ→「大人の事情で日本侵略」でこのようなコメントを頂きましたんで、今回のブログはこのコメントに対する私なりのお返事です。最初にいっておきたいのは、このブログはバイク業界の内部暴露じゃありません。そもそも私、正規ディーラーに勤務したことありませんので。

私が提示してるのは、私のこれまでの大散財経験に、バイク業界で見聞きした事実や噂を織り込んで編み上げた架空のお話にすぎない。だから違ってるかもしれませんし、ドンピシャリかもしれない。一部のメーカーや都市部のディーラーにはあてはまるけど、田舎にはあてはまらないかもしれない。それは読み手の皆様の判断にお任せします(笑)。

かなりの毒があり、正規ディーラーさんのブログが多いライブドアでこれはどうなのよ?ってとこもありますが、マイナーブログなんでやりたい放題、ご気分を害した場合は、何卒ご容赦くださいね。

それでは本題です。

昨今、いろんな規制と安全装備の装着等で大型バイクの高額化が進み、一部のバイクは完全に高付加価値趣味商品になってますね。そんな中で、多くのメーカーが正規ディーラーによる専売体制を構築しようとしています。これはバイクを他の高額趣味商品と同じようにブランドショップ販売型にシフトさせようとしているわけですね。

メガディーラー
(ハーレーダビッドソンのメガディーラー東海。ディーラーのホームページから転載させて頂いています。まさに気分はアメリカ・ラスベガス。まさかこんな豪華で巨大な店舗でバイクを売るようになるなんて・・一昔前からは信じられない光景です。)

身の回りを見渡せば、趣味性の高い高額商品って、機械式時計、オーダースーツ、革靴、アクセサリー、レクサスや輸入自動車等、多種多様なものが存在してますが、それらを掘り下げてみると、売ってるものは違えど販売手法は似かよってることがわかってくる。

バイク業界だけ見てるとイマイチ何が起こってるかわかんないことでも、他の業界も含めて水平思考で眺めれば、そこに一定の共通点があることに気づくわけです。結局のところ、高額商品の利益の出し方にそんな多くのバリエーションなんてないんですね。

ちなみに今回のテーマは正規ディーラーにおける「顧客の選別」ということですが、これを語る前に「正規ディーラーとはなんなのか?」ってことをまず定義づけしておかなきゃならない。

バイク業界における正規ディーラーっていうのは、「その地域において独占販売権を与えられ、バイクメーカーと特約店契約を結び、直接取引を行っている販売店」という定義づけになるでしょう。この「特約店」っていうのがミソで、特約店契約は単にありきたりな販売契約ではなく、契約の内部に様々な特殊オプションがついてる販売店なんです。

特約店の多くは「排他的エリア独占販売」という恩恵を受けられる反面、店舗のしつらえに関する条件や、ブランド維持向上のための努力、顧客サービスの質及び満足度の向上、メカニックの技術レベル維持や整備工場の美観の管理、販売ノルマなどいろんなものを求められてるんですね。

特約店って結構大変なんですよ。たとえばある高級品販売の世界なんかでは「超人気のモデルを一つ仕入れようとすると、不人気のモデルが一定数セットでついてくる」という、抱き合わせセット販売制がとられていたり、年間で仕入れなければならない商品のメニューがあり、「Aセット、Bセット、Cセットのどれを選びますか?」っていうえげつないことになってたりするわけです。なんでそうなるかっていうと、高額な人気商品は売れるけど、量産できないケースが多いからです。だから、人気商品と販促商品をセットにして、一定数をまとめ売りしてディーラーにまわすってことをやっている。

でもね、ちょっと考えてみればそれは当然なんですよ。メーカーにだって販売目標に応じた生産計画があり、売れなかったとしても生産しちゃったものは売り切らなきゃならない。もし商品がスベってしまった場合は、そのケツは正規ディーラーに拭いてもらうしかないし、人気商品だけ販売して、人気ないものはまったく仕入れてくれない自己都合だけのディーラーとは良好な関係を作れません。商売である以上、無理を聞いてくれるディーラーには売れる商品を優先的に回したりするし、ディーラーの意見を商品に反映し、特別仕様を作ったりする。そんな密接な関係は、特約契約のあるディーラーだからこそできるんです。

巨大メーカーなんて、立派な広告打ってても、中身は帝国重工みたいなもんで、綺麗ごとだけじゃやっていけない。その綺麗じゃない部分を処理していく前衛部隊が正規ディーラーってわけですが、現場を知らない巨大メーカーのワガママに振り回されるしんどさは半沢直樹のドラマを見てれば大体わかりますよね。

地方の誰も手を上げないようなとこで細々やってる正規ディーラーならまだメーカーに楯突けたりもするでしょうが、都市部のメガディーラーなんて、メーカーから切られたら「そこで終わり」ですから、メーカーの出す理不尽な要望もある程度飲み込んでいく必要がある。これが「正規ディーラーの大人の事情」ってやつです。

正規ディーラーっていうのは、ある種、販売店の収益や独立性を阻害しかねないメーカー側の「様々な大人の事情」のマイナス面をエリア独占という恩恵で吸収している「ちょっと歪んだマーケット形態」であるともいえるわけです。

しかし、そういう歪みは最終的には販売の現場に形になって出てきます。大概の特約店契約というのはどうあがいても一定数売らないと利益が出ない構造になっちまってるんですよ。だって固定費高いもん。

店舗や従業員、サービススタッフの最低人員確保と社員教育に金がかかりますからね。特約店契約で縛られてますから、売上げがガタガタになったって、社員を無制限に切っていくことはできない。メーカーが求めるフルサポートの維持コストをまかなうだけの収益ラインはナチュラルに高いハードルだと思うのですよ。

さらに特約契約がノルマ制になってたりするとその目標は非常に過酷なものになるケースもある。だから、都市部で「ディーラー夜逃げ」なんていう現象が起こっちゃうわけなんですね。(→業界を震撼させたトライアンフ横浜北の夜逃げ事件

通帳残高4
(通帳残高3桁。いわゆる資金ショート。調子こいてバイクに金使ってるとすぐこうなる。)

そんな環境で、正規ディーラーが顧客を全て同列に扱えるのかっていうと、そんなの無理。だって固定費削れない以上、売らなきゃいけない絶対数は決まってるわけですから、それを達成するためにはありとあらゆることをやるしかない。その中のひとつが「特定顧客の優遇」ですね。

特定顧客ってのは言い方は悪いですが、「誘い水を向けてお願いすれば、ホイホイ買ってくれる財力のある客」のこと。ハッキリ言って、これが販売店にとって一番いい客。ライディングテクニックとか、バイクを見る目とかそんなものはどーでもいい。バイクを見る目が肥えすぎると、「素が一番」っていう質素な結論に到達しかねないんで、知識や経験は販売の邪魔でしかない。

販売力のあるディーラーは、購買能力のある特定顧客を囲い込んで台数を捌いていくってことを徹底する。バイク好きで定期的にリッターバイク買い替えられる客なんてそんなに多くない。そういう人達をガッツリ囲い込むことが収益の安定に繋がるんです。特に店舗維持コストが高く、バイクメーカーの競争が激しい都市部ではそれが顕著でしょう。それは、販売店の戦略としてやってるんで、乗り手の属性とは無関係です。

一般の客にはワンプライスで値引きはないけど、特定の客にはどんどん値引くし、ヨイショもするわけです。で、そんなヨイショを長いこと受けていると、人間だんだんおかしくなってくる。だって、何をしたってディーラーの営業マンから、「凄いですね!最高ですね!」というプラスの褒め言葉しか出ないんだから。

人間は金があっても妬まれるだけで「手放しで誉められることってめったにない」んですよ。だから、肯定感に飢えている人はこの世に一杯いるんです。誉められると、もっと誉めて欲しくなる。で、その快楽を得るために「継続的に高額商品を購入していく」という循環に填まるんです。誉められ続けた結果、「オレって凄いんじゃね?」って勘違いし、「悪ノリや勘違いがどんどん酷くなっていく」わけですよ。

そういうのって本人は幸せでも、周りから見れば極めてイタいわけで、ハーレー乗りにそういう人が多いのは、「メディアを巻き込んでのヨイショ型の販売形態をとっているから」ってのも一因なんです。

ハーレーCVO
(特定顧客層が購入するバイクの筆頭CVO。 このバイクの存在意義はピンクドンペリに近い。天下人が財力誇示に購入する金のシャチホコ的なナニカです。大事なのはいかに傾くかであって、機械のデキや味を語るなんてカッコ悪いし野暮なんです。こんなブログ見て腹立てる人の買うようなバイクでもない。天下人は下々の意見なんて気にしないですからね。)

こんなブログ書くと、「金持ってる特定客に値引きなんて、差別である!金持ってない人間にこそ値引きしろ!」って憤る方もいると思いますが、毎年一台必ず買う客と、私みたいに7年も買い替えず、基礎整備だけ依頼してる金にならない顧客が、同じサービスを受けられること自体がおかしいんですよ。それこそ平等主義の押しつけってもんです。

バイクが高額商品である以上、全ての顧客に「メーカーの指定する最低限度のホスピタリティを提供する」必要はありますよ。ただ、「ホスピタリティも最低限度から、最高レベルまであって、そのレベルを人によって変えちゃいけない」という無茶が商売の歴史上存在した試しはない。だって、各々の顧客と正規ディーラーの間にあるのは独立した個別取引で、お得意様とそうじゃない客は明確に別れるんですから。

たまに顧客平等の根拠としてワンプライス販売が挙げられることがありますけど、ワンプライスなんてものは存在しないんですよ。独占禁止法違反になっちゃいますからね。メーカーのホームページに出てる価格はワンプライスっぽく固定されているけど、あくまでも「希望小売価格」です。希望小売価格っていうのは、その名のとおりメーカーが「この価格で売って頂戴。それが希望なの♡」ってお願いしてる価格であって、強制価格ではないんです。で、この希望小売価格と実際に店頭で買う価格の差が「値引き」っていう概念になるんですよね。

メーカーが値引きを止めさせようと、ホームページに「ワンプライス価格」なんて表示した瞬間、価格統制だ!ってわめきながら公正取引委員会が飛んできますから。是正命令食らって罰金1億くらいは軽くとられちゃう。

だからワンプライス価格なんてのは販売店が「値引きしてまで売りませんよ~」ってことを顧客に強調するために建前的に使っている言葉遊びにすぎないんですよ。ワンプライスといいつつ、特定の顧客に大幅値引きをすることは「まったく問題ない」んです。メーカーも絶対文句なんか言えない。

一般の顧客にワンプライス販売を徹底しているほど、値引きを提示された顧客は「特別待遇を受けている」って感覚を持ってくれるわけで、この特別感が購買能力のある顧客の囲い込みにメチャクチャ効くワケなんですね。

ワンプライス販売は一般顧客に平等感を与えてくれる一方、特定の顧客に対しての特別感も演出しているワケです。結局のところ、この世に真の平等なんてどこにもないんですよ。平等な世界っていうのは市場の中で理想として語られつつも、決して実現することがない「左翼学生が語る青臭い理想主義」みたいなもんなんです。

そういうことがわかってしまうと消費ってものにイマイチ夢が持てなくなる。消費の世界を知れば知るほど、そこにある夢は周到なマニュアルの下に作られたものだとわかるようになるんです。私から見れば正規ディーラーって、様々な大人の事情を綺麗な店舗とホスピタリティと手厚いサポートで覆い隠してるディズニーランドみたいなもんです。

ディズニーランドは人に夢を見せるけど、ディズニーランドという世界が現実に存在しないことは誰しも理解してる。だからこそ、いつまでも安全な夢の国でいられるし、人を破滅させたりしない。でも正規ディーラーの演出で展開される世界は、「現実に限りなく近い非現実」で、そこでは消費を続ける限り王様の地位が約束されてる。店に行くと、チーフクラスが大臣のように常に貼り付いてくれる。その特別感が甘い快感であればあるほど、消費は人をおかしくしていくんです。

結局どんなものを選んでも、自分という生き物の正体はまったく変わんないんで、周囲の変化は金のばらまきがもたらしてる仮想現実なんですね。

バイクと同じように、商売にも、プラスがあればそれに応じたマイナスはある。綺麗な薔薇にはトゲがあり、満開の桜の木の下には死体が埋まってる。美醜は常に表裏一体であり、大輪の花を咲かせるには多くの犠牲が必要になるんです。

私は決してそういう世界をダメだといってるわけじゃない。でも、素晴らしい世界だとも思ってないんですよ。結局、消費の世界は極めてシンプルで、消費者側のとりうる自衛手段は2つしかないんです。それは「真実の探求」「後悔のない選択」。たったこれだけです。商売人は真実を知られないよう頭を使うし、我々はその裏を読みながら賢い選択をしようとする。その実態は「かぐや様は告らせたい」と同じ、勝ったり負けたりの頭脳戦です。

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(頭脳戦に名を借りた恋愛ギャグ漫画。「かぐや様は告らせたい」。知能が高い(と思い込んでいる)人達が恋愛脳になり、知恵を絞りながら、ただただアホな行動を繰り返すというギャグコメディ。消費の世界も、金を取りあうために知恵を絞りつつ、奇妙な踊りを踊ってるだけなのかも。)


いろいろと世知辛いところもありますが、そういうものすら楽しんでる消費の達人もおりますし、何が消費者として幸せなのか、私もわかりません。ただひとつ言えることは、市場は商売の神が支配する天秤のバランスで成り立ってて、誰もその法則から逃れることはできないってことです。

結局ディーラーも顧客達も「見えざる神の手のひらの上で踊ってるピエロみたいなもん」なのかも。そう考えると金のあるなしに関わらず、本質的には皆平等だと言えるのかもしれませんね。



こちらは過去の関連ブログです。

天国と地獄のフレンチ・カンカン(大型バイクの専売制に関する一考察)