「ローライダーSどうですか?」

ここしばらくタイヤ交換やなんやらで、ハーレーディーラーを訪れる機会がちょくちょくあって、そんな誘いを受けてます。ローライダーSは人気なので、ディーラーに納車待ち車両が置いてあることが多く、私はそれを興味深くマジマジと見ているのでそういう声をかけられるんだと思います。

いいっすよねー。ローライダーS。スタイルもカッコいいです。ビキニカウルも私は大好きですし、乗ってみたいバイクの筆頭ですね。

日本ではローライダー人気は非常に根強いですし、今年の売れ筋はローライダーS一択みたいなもんなので、ハーレーダビットソンジャパンもしっかり仕入れており、在庫もあるようです。バイク雑誌もローライダーSを絶賛してますし、もしコロナがなければ相当売れたんでしょうね。

ローライダーS
(ローライダーS。この車格に1868ccって盛りますねぇ。新型のソフテイルシャーシはそれだけのポテンシャルがあるってことですね。)

メカさんに聞くところによると、ローライダーSはかなり速いらしく、「マフラー換えたらすんげぇ気持ちいいですよ~」なんて誘い水をジェット水流のように顔面に噴射されてるんですが、私自身はことハーレーに関していえば「速さにはあまり興味がない」んです。速さを求めるのであれば、現状でもダイノジェット・パワービジョンでそういうセッティングを仕込むこともできるんですが、私自身はそうしてない。

「ハーレーはこれ以上速くなる必要はないかなぁ・・」なんて思ってる。だって、速いバイクは他にも沢山あるし、そもそもハーレーは「遅いけど凄く楽しいバイクなのに、速くする必要ある??」ってのが偽らざる本音です。TC96のノーマルエンジンって絶妙で、インジェクションをイジってアメリカ仕様の点火時期と空燃費さえ仕込んでおけば、下はトルクあって気持ちいいし、上まで回しても1600ccもの大排気量のエンジンパワーが扱いきれる範囲でちゃんと収まる。そのサジ加減がバイクという移動体に対する見識に満ちていて素晴らしい。ミルウォーキーエイトでいうと107ciエンジンはそんな感じじゃないでしょうか。

私の中では「遅いのにとても楽しい」ところがハーレーの味わい深いところなんで、ハーレーを速くしちゃうと「至極当たり前のバイク」になってしまいかねないんです。速さを突き詰めることにより、私がハーレーにとって一番大事だと考えてる「遅いし、ダメなのになんか楽しい」という謎風味がなくなってしまうのが気がかりなんですね。

ローライダーSは凄く良いバイクなのはわかりきってる。刺激があって速くてシャーシバランスがとれてることはインプレ記事みても間違いない感じ。私だって当初はその方向でダイナをチューニングしようと燃えてましたから、メーカーがチューニングする方向性についてもなんら異論はない。

でもね・・今の私がなんで心が動かないかっていうとですね。パワーを出して、欠点のないエンジンになればなるほど、ウチのダイナはハーレーっぽさを失っていったからなんです。

ただ、あくまでこれは「ぼくのかんがえたさいこうのはーれー」を基準にしてますからね。皆さんが同じように感じるとは限りませんから。

人はそれぞれ主義主張も嗜好も歩んできた道も違います。私という変態が感じるハーレーの良さと、皆さんが感じるハーレーの良さが同じなはずがないんです。一台のバイクとガッツリつき合っていく場合と複数台持ちで用途棲み分けを選んだ場合とでバイクに求めるものも変わるし、都市部と田舎では環境も違う。にもかかわらずバイクの善し悪しをステレオタイプに当て嵌めちゃうこと自体が間違ってるんですが、人は大人になると社会で生きるために明確な評価軸を定めないと安心できなくなって、そういう自由さや寛容さがなくなっちゃうんですね。

私はきっとハーレーの持つある種のダメさ加減が好きなんですよ。ダメなのに良い。自分の中で「ハーレーはそこが特別」なんです。自意識だけ高い勘違い女がダメ男にハマる感覚って、きっとこんなんだろうと思うんです。

「このバイクは多分私じゃないとダメね。この良さはきっと私にしかわからないのよ・・ウフフ♡」

っていうコジれまくった自己愛をバイクに投影しちゃってるわけですよ。

ハーレーはダメなところと良いところのコントラストがあればあるほど、良い部分が際立ち、ダメな部分が味になる変なバイクなんですよ。必殺仕事人の八丁堀は、どうにもならん底辺役人から凄腕の殺し屋に変わるからカッコいい。あれと同じようなもんじゃないでしょうか。(←絶対違う)

ハーレーってどんなに頑張っても、メチャクチャ速くなるバイクじゃない。そもそも重いからカタパルト的なバビューン加速は無理なんです。大金ツッコんでもCBR1000RR-Rにはならないわけですよ。

じゃあ、「ハーレーの速さの定義ってなんなの?」ってことになるけど、現状では「乗り手の主観」ってことになるんだと思うんです。これはある意味「速さというものの真実」でもあるんですが、いろんなインプレではこの「主観的速さ」「絶対的速さ」がごっちゃになってるからわかりにくい。主観的速さっていうのはひとつの概念であるわけですが、評論家の方ですら明確には使い分けてませんよね。

で、わかりやすい絶対的な速さってことになると、バイクにおいてはまず「軽さ」なんですよね。

私が常々「ハーレーが遅い」っていってるのは「絶対的速さ」を基準としてて、理由も8割方車重によるものです。バイクで機動性を極めようとすれば軽さが命なんですが、スポスタならともかくソフテイルに軽さなんて微塵もないわけですよ。一方「主観的速さ」に関しては、私のダイナだって十分すぎるほどある。だってあの車重とサスで峠を真顔で攻め出すと危ないですからねぇ。危険信号バキバキですよ。

重いバイクは辻褄が合ってる間は手応えがあって凄く気持ちいいし、安定もしてますけど、何かの拍子にオーバースピードになって、とっちらかるとマジ危ない。安定している領域の外側に踏み出しちゃった時の危険度が桁違いなんです。ガードレールに一直線に向かっていきますし、修正の幅も自由度も少ない。

私は最近F6Bでスノーシェードの中の急なコーナーにトンデモないオーバースピードで入っちゃって、コンクリート壁に刺さりそうになったことがあるんですが、過去に同じように壁に刺さって「アッチョンプリケ」した経験があるんで、心臓が口からビヨンと出つつも、なんとか冷静さを保ってギリギリで事なきを得たわけです。

こういうとき、過去に廃車にしてきたバイク達の凄まじい怨念が「残留思念になって我が身を守る」わけですよ。

「アホかぁああ!なにやっとんねん!!こんなとこで刺さってリタイヤするのは許さんぞぉおお!!貴様は無期懲役なのじゃぁあああアアア!!」
ってどっかから声が聞こえる。

でも、清らかなビギナーさんはそんな「平家の怨念的残留思念」をまとってない。そんなもん纏っちゃダメ。これは悲しみと痛みと生活困窮の果てに装備できる「呪いのマント」みたいなもんですからね。フツー会得するまでにバイク降りますからね。バイクの暗黒面はできるだけ見ない方がいいんです。

これまでハーレーは「重くて遅いけど、とっても楽しいから大型初心者にオススメなバイク」って評価してましたけど、ローライダーSは「純粋に重くて速いバイク」になってんですよ。CVOと同様のゴリゴリのハイパワーエンジン搭載してんのに、立ちゴケバンパーつけてる大型ビギナーさんにガンガン納車してる。「ねぇ、これちょっと大丈夫なの??危なくない??」ってのが私の感想です。

ハーレーは目を血走らせて走るんじゃなく、晴れ上がった空と輝く景色を見ながらストレスのない範囲で走るところに一番の旨みがあると思う。ダイナなんて、ちょっとシゴくとすぐガードレールと勇者合体しそうになるけど、のどかに走ってると癒やし成分が出まくって最高なんです。

あとはカスタムし放題なユルさも素敵。私のダイナは11年間カスタムを繰り返してきて、私固有のバイク観とハーレー観が混ざって凝縮したようなバイクになってます。ガレージから夜引っ張り出して近所を一時間ほど走りまわる度に「・・なんでこんなにも胸を打つバイクになっちゃったの??・・」と思う。

多分新車の時はそこまでのバイクじゃなかった。でも11年という長い歳月の中で繰り返した自分の試行錯誤が、このバイクの中に澱のように蓄積してる。ハーレーの一番いいところはスペックじゃなくて、そういうところ。長く乗れるデザインと耐久性があり、カスタムレンジが天地無用でクソ広い。

そこに「誰がなんと言おうと最高のバイクを追い求めていこうではないか!もちろん主観的な意味で!!!」という私自身の心境の変化が加わって、現状私のダイナは「自分だけにブッ刺さるロンギヌスの槍」になってるんです。自分の嗜好のツボを突くようなバイクをアホみたいな年月をかけてオーナー自身が作ってるわけですから、これはさすがにツルシのバイクじゃ太刀打ちできない(笑)。

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(自分をメッタ刺しするためのロンギヌスの槍となった11年目のローライダー。最初から売れっ子アイドルなのがローライダーSなら、私のバイクは街角の冴えない女子をフルエステして仕込んだ感じ。ガレキもそうですが、自分の手で完成させたものって、やっぱ思い入れが違うわけです。性能も大事だけど、長くつき合うには主観的な価値も大事だと思うんですよね。)
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(リアキャリアのアタッチメントをポン付けしてソロキャンプへ。今のローライダーは私の望みを何でもこなす「ランプの精」みたいなバイクになってる。新しいバイクを買っても、ゼロからもう一度このレベルまで仕上げる情熱と自信がありません。)

ローライダーSが素晴らしいバイクなのは良くわかってる。でもあえて私がオススメしたいのは今年170万円で出たソフテイルスタンダード。

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ソフテイルで最も安いだけでなく、なぜかコストの高いクロームパーツがそこかしこに、さらにコストがクソ高いスポークホイールが標準採用されてるという、スーパーウルトラお買い得車。もうわけがわからない。なんなのこれ。

下手すると黒一色の上位モデルよりコストかかってんじゃないの??エンジンが107ciなのもまたいい。ハーレーはパワーのないエンジンこそがいいと思うんです。ソフテイルなら107、スポスタなら883。しかもスポークホイールですよ~。

スポークホイールのしっとりしんなりとした乗り味を皆様に是非味わって欲しい。 ツルシで速いローライダーSで爆走するのもいいけれど、ソフテイルスタンダードをカスタムしてハーレー沼にはまるのもまた一興だと思うんですよ。

トータルではローライダーSよりメチャメチャ高くつくおそれがありますので本末転倒かもしれませんが(笑)