皆様ご存じかと思いますが、私はSC68型ゴールドウィングの廉価版、F6Bに乗ってます。しかも新車で購入したものじゃなく、赤男爵で中古購入したものなんです。新車も頭になかったわけではないんですが、F6Bって中古が超お買い得だったんですよねぇ。

購入時、赤男爵でF6Bの在庫調べてもらったら、新車みたいな低走行車の出物がそこそこあってビビりました。「ええっ?ナニコレ??どういうこと??」っていいたくなるほど走ってない。

そもそもツアラーってのは荷物積んでロング走るのがお仕事で1800ccも排気量ある大陸横断ツアラーで1万キロや2万キロはウォーミングアップ程度の走行距離です。実際ゴールドウィングのエンジン耐久性は30万㎞くらいあるんですから。

そんな中、F6Bに関しては、市場に出てる多くの中古が走行2000㎞~7000㎞くらい。1000㎞以下のタマもある。加えて初期オーナー様が新車購入時にいろんなオプションつけて下さった「お買い得車」も存在していたんです

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(購入時からほぼ手を入れていないF6B。必要なものはほぼ全てついていた。フロントのディスクカバーやリアのバックレストは逆に外したくらい。もうカタログでつけられるオプションはみんな盛りましたって車体でしたね。)

私のF6Bもそんなお買い得車の一台で、純正フォグと純正グリップヒーターと純正ナビキットとリアのバックレストとメッキのディスクカバーと車検対応のヤマモト管(買うと20万円くらいする。)がついてて、走行800㎞??はぁぁ?マジっすか??外装もコーティング済みでペッカペカじゃねーか。

「え??これ私のために慣らしした上で外装磨いて、マフラー付け替えて車庫保管してくれてたんですか?」っていいたくなるようなおあつらえ向きの車体でちょっと怖くなっちゃうほど。

ここに前のオーナーさんが見に来て頂けることもあるやもしれませんが、あなた様の車両は私のもとで元気に活躍してます。本当にありがとう!!土下座を通り越し、虎の毛皮のようにベタ伏せしちゃいます。

当然ですが納車されても絶好調。私の荒い乗り方が原因で、後日フロントのステムを増し締めしたくらいで、大きなトラブルは一切ない。まぁ今はリアの箱開かないですけど(笑)。

結局、私が後付けしたのはETCとセンタースタンドだけ。あとは、リアのバックレストをリアキャリアに変更し、ヘッドライトをLED化したくらい。他はなーんにもしてないです。カスタム費用も金食い虫のダイナに比べたら可愛いもの。しかもガソリンレギュラーですからねぇ・・・。

F6Bってもともと定価が「200万円を切ってどうぞ」という、6気筒搭載車としては、破格値のバイクで、しかもスタイリッシュなバガースタイル、色もレッドやイエローというド派手な原色(塗装なしの色プラですが)が選べちゃうなど、私のような目立ちたがりのボッチ君には最高のバイクだったんです。だって今買おうとすると、BMWの同じバガースタイルのK1600Bが350万円ですよ。現行のSC79だってDCTなしで280万円するんです。それ考えると200万円で6気筒の新車買えるっておかしいでしょ。乗る度に「この力強いのに優しいフィールが・・もう・・とろけるぅ・・」って感心しきり。

にもかかわらず、初期型F6Bは、中古車市場見る限り「ご主人様にすぐおいとまを出されてしまう」という哀しい境遇のバイクでした。

走行1000㎞以下の中古車って、夫婦に例えると成田離婚みたいなもんですよね。メイドだとお試し期間の初日で解雇って感じ。エンジンはこの上なく贅沢で、スタイリッシュで価格もリーズナブルと至れり尽くせりのはずなんですが、「オーナーとの数回のランデブーでもう見切られてる」わけなんです。

それはやっぱり「385㎏の車体の取り回しが多くの人にとって地獄以外の何ものでもなかった」からだと思うんですよ。これはバックができるようになった「後期型、地味カラーのF6Bが中古市場では初期型に比して圧倒的な人気&高値であるという事実」からも明らかです。

猿の惑星・下絵
(今回のイラストの下描き。鉛筆絵って好きですね。ちょっと粗いけど、こういう風にしたら・・とか、コッチはどうだろう・・という製作途中のごちゃごちゃとした感情がそのまま絵になってる感じです。)

「いや、ストリートグライドやロードグライドスペシャルにもバック機構ないじゃん。バックモーターないと取り回せないなんてヘタレかよ(笑)」という人がいるかもしれませんが、はっきり言いましょう。ストリートグライド系に後退機能がないのは車高が低くて「足で漕げる」からですよ。

長年観察してますが、道の駅でストリートグライドを降りて押している人を見たことがない。みんな後方へ下がるときは乗ったまま足漕ぎで移動してます。つまり、ハーレーの車重で「降りて取り回す」という行為はリスクが高すぎて、多くの乗り手が選択してないってことです。

ゴールドウィングは車体のディメンションの都合上、一定の車高の確保が必要で、必然的にハーレーのような足つきを実現できない。ノーマルシートだと168㎝の私でも片足接地でかかとが浮きますから、両足接地だとつま先の先端しかつかない。シートのあんこ抜いて太もも部分削っても、力入れて前後に漕げるほど足つきは良くならないんです。その解決策としてホンダはバックモーターをつけたと私は理解してるんですね。

つまり現行のストリートグライドにバックギアないのは、「足で漕げる車高にしてあるから♡」ってことなんですよ。ウルトラになるとシート高も高くなるので、マンバのバックギアつける人がさすがに多くなると思いますけど、ローシートやローダウンなど、車高を下げるカスタムパーツは山ほどあるので、足つくまで下げればいいという意見もある。

一方のF6Bは、シート幅が広くて足つきが悪いくせに、カスタムパーツは絶無。その状況でバックモーターを取り外せば、そこに残るのはビクともしない鉄の塊のみ。

「動け、動け!動け!動け!動いてよ!今動かなきゃなんにもならないんだ!!今、動かなきゃ、人呼んで押してもらわなきゃならないんだ!!そんなのもういやなんだよ!だから、動け!動け!!動いてよぉぉおおおおおおおお!!!」

とエヴァの神回「男の戦い」よろしくステアリングをガチャってみても、人智を超えた何かが目覚めて動き出すことは絶対にない。

ホンダの営業さんは「車重はハーレーのストリートグライドと同じくらいですから~。あっちにもバックギアありませんけど、みんなフツーに乗ってますし~大丈夫ですよ~♡」なんてセールストークで売りさばいたのかもしれませんが、一見同じようでも、股下の事情で納車後の状況は天と地ほども違うんですよ。

じゃあしょうがないから降りて取り回すか?っていったって、それもどうかと。それまで優雅にライディングしてた妙齢の紳士然としたオジサマがですよ。

「あぁここはバックですか・・。ハハ・・しょうがないですな・・。では少々失礼して・・。」

「ヅォラァァアアァアアアアアアアアア!!」

なんてキバりはじめたら、もうフラッグシップの雰囲気台無しですよ。「王様から季節労働者にジョブチェンジ」じゃ落差ありすぎ。私みたいに「奴隷が王様のフリをしている」ような場合は正体ばれるだけなんですが、ホントの紳士にコレはキツイ。

私だって200㎏半ばくらいのまでバイクなら「乗れるバイクの幅を広げる意味でも、取り回しのスキルは大事ッスよ」ってアドバイスします。

でも「400㎏近いバイクを降りて押せ!」とはとてもいえない。もう「オッショーイ!」うかけ声と共にだんじり押してるみたいな世界に入っちまいますからね。ツーリング先で健康を害しますよ。マジで。

私はF6Bをなんとか取り回してるんですが、それは何年もバイク店に勤務して身についた取り回しスキルがあるからですし、それでも「はわわ・・(超汗)」となることがありますんで、一般人が385㎏を同じように取り回していくのはハッキリ言ってマゾっ気に満ちたプレイに似た何かだと思います。

猿の惑星3
(一部の女子に根強くはびこるマッチョイズム。プロレスや格闘技好きの女子もずいぶん増えましたが、彼女らには屈強な男達を精神支配できる自信があるんでしょう。一見普通の子がボーイズラブの名の下に男を裸にして好き勝手やってるんですから、恐ろしい時代になったものです。)

私はバイクには等価交換の原則があって、何かを求めるなら何かを失うのもやむを得ないと考えていますが、そのポリシーを人に押しつけるつもりもサラサラない。バイクで何より大事なのは「とにかく一人でなんとかできる」こと。所詮バイクってのは一人で全てに対処する自己責任の乗り物なんですから。

バックギアやバックモーターがあれば、一人でも重量級バイクを優雅に制御できる。だからK1600Bも新型ゴールドウイングもインディアンチャレンジャーもバック機構を装備し、ウルトラも社外のマンバ製バックギアが用意されてる。

しかし、そんな流れに逆らうように、あっけカランとバック機構を捨て去って、乗り手をゴリラに限定した初期型F6Bの潔さというか馬鹿さ加減を私はとっても気に入っています。

F6Bってカタログでは「スタイリッシュになったんです♡このヒップラインが萌えるでしょ♡」なんてアピってますが、実際に付き合ってみると「ホラホラ、ちゃんと押してくださいよ。鍛え方が足りないんじゃないですか?男の価値は筋肉ですよ。」とばかりに容赦ない。

装備を思い切ってカットして、価格的にとっつきやすくしてハードル下げたはずなんですが、乗り手をゴリラに限定したおかげで、ハードルが逆に上がっちまってるというどうにもならない戦略ミス。ムチだけでは乗り手はついてこなかった。

あまりにも離婚率が高いんで不安になったのか、後期型でこっそりバック機構を搭載しつつ媚びてくるあたり、またなんともいえない味わいがあってジワる

まぁそんなわけですから、初期型F6Bは良いバイクだけどダメバイクなんですよ・・。

でもバイクも人と同じで多少ダメな方がツボに入っちゃったりする気がします。重さに腰をやりそうになりながらも「コイツは俺じゃないと付き合っていけないだろうな・・」なんて思っちゃうんですよね。DVの夫から離れられない女性の心境ってこういうのなのかもしれませんねぇ(笑)。