前回私のツーリングコースについてくだらないブログを書かせていただきましたが、今回はその中から越前海岸を南下するルートについてご紹介させていただきたいと思います。

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(夕日に染まった群青の海。この夕日をバックにバイクを走らせる。それはまるでヒーロー物のエンディングの世界。ゆっくり走る船がいい味出してる。)

越前海岸沿いのルートは夕方になると日本海に沈む夕日が一望できる一本道の夕焼け道です。行程のほとんどで「海に沈むオレンジの夕焼け」を見ることができるので、晴れた日の夕方は満足度がマックス。ソロで走ると夕日を背景に、たそがれた格好いい中年を演出できるというトワイライトなルートです。
 
振り返ってみると若い頃の私は山ばかり走ってました。当時はペースも速いし運転も荒かった。より強い刺激を求めた結果、海沿いは民家が多くスピードも出せないので、ほとんど山一辺倒になってしまった。でも年を食ってペースが落ちてくると、広大な海を横目に走る海沿いルートに魅力を感じるようになります。

今回紹介する越前海岸は福井の人には、大野から九頭竜川を北上する山方面ルートと並び結構メジャーなツーリングコースなのではないでしょうか?越前海岸は切り立った山から一気に海になり、海と山の間を道が延々と続いていくのが特徴です。それ故に道幅も狭く、100㎞近い行程でコンビニも3カ所くらいしかないという、マスツーリングには非常に使いにくいルートとなっており、バイクのグループとすれ違っても大名行列というのはまずない。

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(冬場のF6Bの無敵感は異常。この巨大カウルが凍てつく風からライダーの全身を防御する。怖いのは融雪装置と路面凍結だけ。)

マスツーに使いにくいと言うことは、裏を返せば私のようなソロライダーにはおあつらえ向きということです。コースとしては能登半島一周コースが最優なんですが、日帰り500㎞はちょっと根性がいる。これに対し越前海岸は往復200㎞くらいの手頃さがあり、気楽なところもいいのです。

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(しおかぜラインの一風景。この道は私の越前南下ルートの折り返し点。潮風ラインの終点でUターンすると半日コースとして丁度いい。)

しかし、残念ながら今年7月7日の大豪雨でルートのど真ん中が「土砂崩れにより通行止め」となってしまいました。この通行止めのおかげで石川県から敦賀方面へ抜けようとするとかなり手前から山越えで迂回して、通行止め区間を抜け、再度海岸に戻るというちょっと面倒なことになっていたのです。

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(南側からみた道路。大量の土砂に完全に遮断されています。)

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(北側からみたところ。巨大な岩が行く手をさえぎる。まさに大自然の暴力。まるで映画のワンシーンのよう。)
 
「海に走りに行ったのに山越えとは?」って感じですが、迂回ルートもそれなりに楽しめていたので、私は特段問題を感じていませんでした。しかし、「とりあえず晴天に走ってればご機嫌」なバイク乗りはともかく、越前市にとってこれは捨ておけない事態なのです。
 
なんせこのシーズン越前を目指してくる旅行者のお目当ては蟹。そう、日本一の知名度を誇る「越前ガニ」です。肉は松坂、蟹は越前であり、「多くのグルメ、ガストロノミーが求めてやまない冬の味覚」なのであります。

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(生ける札束、越前ガニ。この小癪なタグがブランド蟹の証。身がスカスカのズッポ蟹をたまに食うだけの庶民には、立派すぎる越前ガニは目の毒です。)
 
とにかくカニの季節になると越前市には全国からカニを求めてグルメが集まってくる。11月後半から1月頃までは最高のかき入れ時。そして蟹を食うならやっぱり越前海岸です。11月に入るとカニ漁が解禁されるので、それまでに越前海岸への導線を確保しとかないと北陸方面からのお客様が見込めないため、大幅収入減で地団駄を踏む事態になる。
 
なんせ、漁師にいわせれば「網に札束が入ってくる。」ともいわれている高収益海産物が蟹。海の黄金、ゴールデンカムイならぬ、ゴールデンカニーなのです。スチロールに氷と一緒に詰めて豊洲に送るだけでもウハウハですが、「豊洲に利益をごっそり抜かれてしまう」ので、できるなら地元で直売りし高収益を見込みたい。
 
そんな勝負シーズンが間近に迫っているにもかかわらず、福井県や北陸方面からやってくる人の流れの関所のような部分が通行止めになってしまったのです。

越前海岸の厳しいところは、景勝地が多いにもかかわらず交通の便が悪いところ。越前海岸に向かう道行き自体はバイク乗りにとって滋味あふれるものなんですが、いかんせん道幅狭く、限られたルートでしか到達できないという、「蟹がとれる以外はいたって普通の漁港」です。しかも今回通行止めになったのは主要ルートの急所のような部分。この部分が塞がれると、越前市への導線の3割くらいが停止しちゃう。「ねぇこれどうすんの?」と思っていたら開通しました!
 
ご覧下さい。

「もう格好なんかどうでもいいやないか!とにかく架設でも何でもカニ客を逃してはならぬ!!」

という叫びが聞こえそうなこの強引極まる迂回路を!!
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(命名「蟹の架け橋」の俯瞰図。この写真撮るのに、わざわざ崖を登りました。右下の信号見てもらえばわかりますが、橋が狭いため相互通行になってます。)

私はこれを「蟹の架け橋」と名付けたい。きっちり蟹の解禁時期に合わせたように開通です。土砂の撤去を後回しにしてでもルート開通を優先していることは明らか。まるでスゴロクで出目が悪かったときに通らされるお仕置きルートをリアルで見ているかのようですが、なんともいえないこの力強さはなんなの?
 
それはこの橋が「燃える商魂」を具現化した魂の建造物だからでしょう。本来は時間をかけて土砂を取り除き、1年くらいかけてしっかりと道路の再補修と土砂崩れ対策をやるべきところ、「そんなものはほっとけ!」とばかりの突貫工事。格好なんてどこ吹く風。「あのー、これ一応県道なんですが、なぜか交差できないんですががが?」という問いかけに対し、「は??道路の体をなしてなくてもそれがナニカ?」的な開き直りがある。
 
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(パイルを海の中に打ち込んで、ものすごい高さに迂回路が作られてます。転落防止のガードレールが割と低いため、土砂崩れの全容が実によく見える。)

「幹線道路の施工基準?何いっちゃってんの??カニの季節に開通間に合わなかったら地元キレるよ?私の票も減るよ?キミの出世もなくなるよ??わかっているのかね!!土木課長、キミだよ!キミィ!!!!大漁旗でシバかれたいのかねェエエエエエエエエ!!」

・・・という荒れた内幕が見えるようです。
 
ただ、この珍しい迂回道、偶然にも観光スポットとしてもインパクト抜群のものになってます。苦し紛れに崖崩れの現場ギリギリに側道を通した結果、大自然の暴力を至近距離で見ることができるからです。
 
写真を見ていただければわかりますが、大量の雨水に流された超巨大な岩と土砂が完全に道路を消滅させ、圧倒的なエネルギーと推進力で海まで浸食しています。大自然の前では人間など浄化槽の中に落とされたアリのようもの。その凶悪な現場の迫力に言葉を飲み込んでしまう。

私は一度この迂回路を「スゲーっ」なんてつぶやきながら通り過ぎましたが、その光景が忘れられず、Uターンして再度写真を撮りに戻りました。そういうことって私のツーリングではとっても珍しい。その時撮ったのがこれらの写真です。ちなみに私以外にもバイクを止めて現場写真を撮影しているライダーが数人いました。

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(押し流された大量の土砂と巨大な岩。その通り道にあったものは全て破壊、なぎ倒されています。)

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(写真にするとわかりにくいですが手前の岩は2メートル以上ある。)

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(迂回する橋の根元まで岩が押し寄せてます。決して固くないだろうと思われるこの地盤に何メートルパイルを打ち込んでこれを作ったんだろう・・と思いを馳せるとその強烈なモチベーションに目頭が熱くなる。)
 
なお、この越前海岸ルートには「蟹にまつわる悲しい思い出」もあり、このネタはもう少し引っ張ります。ここで全部出しちゃってもいいんですが、6000字近くになっちゃうので、ここで切って続きは次回にしようと思います。
 
次回はこちら→越前ガニ・トラウマ紀行