ハーレーがヨーロッパ向けの生産工場を米国外に移転するという発表をしました。候補地はインドやブラジル、タイらしいですね。「EUがハーレーにかかっていた関税を6%から31%にアップすると発表したから」という理由です。

トランプは先だって「EU諸国がアメリカに輸出している鉄鋼・アルミに関税をかける」と大々的にアナウンスしました。これの対抗措置としてEUがアメリカから輸入されるハーレーに関税をかけるということになったわけですが、自由貿易主義から保護主義に走るアメリカへの報復として「自由の象徴」を売り文句に掲げるハーレーを狙い撃ちとはEUは実にトンチが効いている。

「保護関税で何が自由ですか、笑わせますね。あなたたちはこうしてあげましょう、えーい、くぬっくぬっ!」って感じでしょうか。ハーレーはバイクのルーツといえるメーカーであり、どの国でもそれなりに良質なイメージが浸透しています。アメリカの象徴として成功と名声を納めている企業を叩くというのはアナウンス効果が非常に大きい。「保護主義の報復の連鎖の中ではアメリカも血を流すことになる」という事実をわかりやすくアメリカ国民に伝えるには、アメリカの成功の象徴を攻撃するというのはなかなかに効果的です。

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(文字だけでは地味なので、ハーレーのホームページから2018ロードグライドCVO。艶のあるジャーマングレーぽい色でミリタリー色が強いかも。都市部では面白いんじゃないでしょうか。格好いいですね。ただコストのかかるメッキが減ると利幅は増えます。)

広報的に最大の効果を上げつつ、影響も小さい。ハーレーの売り上げは欧州全土で4万台程度で関税による経済的なマイナスは50億円切るくらいのレベルじゃないでしょうか。ハーレーにとってはとんでもない数字かもしれませんが、ヨーロッパ経済圏に与える影響はそうでもない。バイクは欧州産の競業メーカーもあり替えもきく。自分たちの地域のドカやBMW、トライアンフに漁夫の利が転がり込むという面からしてもEUには特段のデメリットはないのかもしれません。

この対抗措置に対して、ハーレーはさっさと海外への工場移転を発表します。妥当すぎる結論です。トランプは「我慢してぇ!!」と涙目になってましたが、ハーレーからすれば「アホか!我慢できるわけないやろ!!!道連れになってたまるか!!サイナラ!!」って感じでしょうか。

だいたい取引相手国に関税を25%も上げられた企業に「我慢してね❤」は無理がある。ハーレーはヨーロッパで4万台を売り上げているのです。これは昨年の日本での販売台数の4倍にあたる。

その数をさばくためにハーレーは長年コツコツと販売網を整備し、商圏を育ててきたはずなのです。にもかかわらず高率関税の直撃を受けてしまえばハーレーの長年の苦労は水の泡。築いてきた販売拠点も一気に失い、現地ディーラーの信頼も失う。だから絶対に会社としてこの関税を受け入れることはできないのです。

加えてハーレーはモデルチェンジしたミルウォーキーエイトエンジンや新型ソフテイルなどの世界戦略仕様車をここ数年投入しており、「さぁこれから」という時期。生産コストの安いブラジルやタイに工場を移転し、競争力を向上させ、収益を少しでも取り戻したいと考えていたはずですので、この高率関税は「長期的に見て逆に追い風」になった可能性すらある。

国内雇用にこだわり海外への工場移転を許さないトランプ対し、「報復関税受けちゃってやむを得ないんですぅ」という言い訳も立つし、雇用している労働者にも説明が容易。メディアの同情論も誘える。31%もの関税を前にして「我慢が足りぬわ!」とハーレーを叩く人は誰もいないでしょう。

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(個人的には非常に好きな色使いですが、購入するにはちょっと勇気がいる色です。私のような農耕地帯に住んでいると、こういうカラーリングの農業用桶が結構あったりするので・・。)

そう考えると、このEUの対抗措置はハーレー側とも調整した出来レースのようにも思えてくる。トランプとEUがバチバチやってても、EUにとってハーレーはEU圏内で経済活動を行い、雇用を確保してくれている大事な企業。ハーレーにとっても成長がこれ以上望めなさそうな国内より欧州の方が開拓可能な市場がある。そんなわけで報復関税決定の前にハーレー側と一定の情報交換があった可能性は十分ありうる。ハーレーの海外移転の方針決定スピードも相当速く予定調和感がありました。そういうことならトランプがハーレーを裏切り者扱いしているのも頷けんでもない。

このハーレーへの報復関税がらみの一連のやりとりでのEUの立ち回りは、正面からの力押しを好むトランプに対し、全面対決や激変を避けつつ、相手の厭なところをチクチク突いていくというマキャベリズム的狡猾さがあり「欧州怖いな・・。」と改めて感じさせました。

結局この報復措置で一番ダメージを受けたのは誰なのか?EUがハーレーの今後の世界戦略、企業方針を熟知した上で、この高率関税を設定したとしたら・・メンツを潰されたトランプだけが損をしたのかもしれない。

「フフフ・・これが政治というものですよ。ゴリラには政治はできません。覚えておきなさい、ザーボンさん、ドドリアさん。」というセリフがなぜかフリーザ様の声で脳内再生されてます。こういう政治的な駆け引きにそこはかとない味わいを感じるのは私が歳を食いすぎたからなのでしょうか・・。

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(EUからはフリーザ味を感じる。フリーザはセリフといい表情といい個人的にジワジワくるキャラ。欧州の意志決定機関にはフリーザみたいな人が一人はいそう。)

この世の中、誰かを踏みつけにすれば必ずそれによって遺恨が生じる。商売というのはライバルを倒し、自分が勝ち上がる過酷な生存競争です。そんな中で敗者を納得させる唯一の方法が自由でハンディキャップのない公正なルールなのです。現実には完全なる自由競争など夢のまた夢なのですが、少なくとも「自由なように感じられなくてはならない。」そういう意味では高額関税は下心が明確すぎて下策です。

ある日突然予告なく関税をかければそれによって生存を絶たれる企業が出てくる。将来を潰された企業は、自分たちの努力を踏みにじった理不尽な第三者の決定を決して受け入れないし、許さない。それを繰り返すと相手方への怨念だけがどんどんたまっていく。それが国レベルで生じるとやがて戦争になる。

タダでさえ収益が落ちていて苦しんでいるハーレーです。EUもハーレーを高率関税によって倒産させてしまっては、「アメリカの象徴をEUが殺した」と言われかねない。アメリカ国民の恨みも買うし、政治的影響も甚大ですので、ハーレーを極限まで追い詰めることはハナから考えていなかったでしょう。ハーレーを生かしつつ、トランプをやり込め「これ以上噛みつくとどうなるかわかっているな」と警告する。

その目標を今回の対抗措置は極めて高いレベルで達成しており、この件については「勝負あった!」なところがあります。ハーレーは性能だけでなく反骨精神的なイメージを武器にしているバイクメーカーですので、養殖の魚のように生かされているような商売はまずい。アメリカがこのまま保護貿易を続けるようなら、遅かれ速かれハーレーは何らかのアクションを起こしたのではないか?と思っています。

最近のゴタゴタはトランプの暴走というよりもアメリカ国内で長年溜まった膿が表に出てきたものに過ぎない。「保護主義的政策を展開したところで結局のところ上手くいかない」という結論にアメリカが辿り着くことも、これからの世界経済にとって必要なプロセスなのかもしれない・・なんて思ったりしています。