今回はインジェクションチューニングについて思うことを書きたいと思いますが、インジェクションチューニングといっても「セッティングが~」とか「パワーが~」とかいうブログではありませんので、その点ご理解いただきたくお願い申し上げます。

私は現在TC96のダイナに乗ってます。このダイナですが、ノーマルのセッティング、決して嫌いではないんです。良くできてると思います。しかし、下が薄い。自然な感触ならまだいいんですが、ちょっと違和感を感じるほど薄いのです。

私はそれを解消するため、インジェクションコントローラー(ダイノジェット・パワービジョン)を導入しています。このインジェクションコントローラーの優れたところはパソコン上で自分の車両の点火時期や空燃費を自由に設定できるところ。昔で言うところのメインジェット、スロージェット、点火タイミングの調整がパソコンからの打ち替えでより緻密に簡単に出来てしまうという優れもの。もう燃調を変えるのにタンク外してキャブ抜いて手を油まみれにしなくてもいいんですねぇ。いい時代になったものです。

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(魅惑のダイノジェット・パワービジョン、コンピューターに差し込むだけの簡単接続。)

購入したパワービジョン(10万円)の中には販売元のシャフトさんのインジェクション設定がいくつか入っていたのですが、どれもこれも「いささか濃い」のと上まで単調に吹けてしまって、今ひとつ私の好みにあいませんでした。(所詮自分好みのセッティングは「自分にしか作れない」ので、シャフトさんを責めてるわけではありません。)

レースで走るんであれば一本調子でトルクの谷なんかない方がいいんでしょうが、公道を巡航するなら多少トルクの谷などを作って回転がステイできるダルな部分を作った方が楽で味わいがあったりします。そういうわけでショップのセッティングがイマイチお気に召さず、自分でアメリカのノーマル設定を引っ張ってきてそれをカスタマイズして自分の好みにしています。(ちなみにマフラーはデイトナの車検対応です。)

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(シート下の左サイドカバーを外して)

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(カプラに差し込むだけの簡単接続。後はパソコンで作成したセッティングを流し込むだけ。) 

ハーレーについては飛ばすより「味わい重視」なのと、なんだかんだいって「バイクはノーマルが一番バランスよく出来ている」という経験則がありまして、北米のノーマル設定を少しだけアレンジしたライトチューン(点火時期、空燃費とも全部パソコンに手打ちで入力してます。)にとどめてます。

「峠で存分にシゴき倒したい!!」という方はハーレーを100万円かけてチューンするより峠用に羽のように軽い新型CBR250RRあたりを追加購入した方がいいのではないでしょうか?ハーレーは峠仕様には重すぎるし、全てのモデルが素で「いい味」出してますから、下手にいじってこの味が消えてしまう方がマイナスではないかなぁと感じてます。

とりあえずライダー人生も下り坂の私はこれで十分満足しているのですが、現在の状態がすべてにおいて最適かというとそんなわけではありません。「現状では私のバイクは日本の環境基準に適合してない」わけで、まぁぶっちゃけ違法状態。このままじゃ排ガス検査とおるわけないので、車検の時はインジェクション設定をノーマルに戻してます。このように騒音や環境への配慮を無視すればパワーは素人にも出せる。「セッティングいじってもいいけど、車検のガス険、音量検査とおる範囲でね~」なんて言われたら私はお手上げ。これが現代のバイクの姿です。

企業というのは社会的な責任の中でバイクを売るわけで、当然環境に配慮したバイクを作らなくてはならないし、私もそれには賛同してます。自分のバイクで基準を超える有害物質をを撒いていて言うのもなんですが(世の中の皆さん、ごめんなさい。)、ノーマルで有害物質を撒いてるメーカーのバイクを買うか?といえばやはり買わないでしょう。(というか、そんなバイク販売できないんですが。)

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(ダイノジェットパワービジョン動作中。自動で空燃費を適正化してくれるオートチューンという機能がありますが、試してみた結果トルクカーブが綺麗になりすぎて私のような変態にはイマイチ刺さらないので使ってません。アイドリングも700回転まで下げられますが、三拍子にもまったく興味ないのでこれまた使ってません。)

だって、有害物質をガンガン撒いていいんなら現代のパワー競争なんて難しいものではない。有害物質を撒かずに必要なパワーを出す。これがメーカーの技術力であり、有害物質をまき散らしながら爆音を響かせて「パワー出てます。」なんていっても、それは至極当然であって技術力があることには全然ならんわけです。

ハーレーは北米の基準で最適化されてしまってるのでより厳しい日本の基準に対応すると低速領域がかなり薄いセッティングになってしまう。でもハーレーはそれを許容してでもコンプライアンス(企業倫理)をとったからそれでいいんです。実に正しい。VWのディーゼルなんかは緩い欧州基準から世界一厳しいアメリカ基準に対応しようとしてパワースカスカになるところを、それを拒否して不正をやらかしてしまったわけですから・・。「日本に入ってきていた車両は大丈夫だから問題ない!」というアホな評論家もいますが、これは「不正商品を送り出した企業の考え方、企業姿勢」の問題ですので、車単体の問題に矮小化しようとする一部評論家はコトの本質が見えてません。(こういう企業コンプライアンスの本質がわかってない低レベルな評論家は車社会を語る資格がないので雑誌からは即退場すべきだと思います。)

ただ、VWを擁護するわけではないですが「燃費を上げろ!パワーを絞り出せ!排ガスをきれいにしろ!!でもコストは上げれん!!」ってどだい無理なんですよ。熱効率なんて機械も人間も原理は同じ。「飯食うな!もりもり働け!臭くないオナラをしろ!服は古着で!」なんて言われたらふつうはブチキレますよね。ボカロの歌ではないですが、機械にもココロのようなものがあってですね。無理難題を押しつけてもいうこと聞いてくれないんです。

環境に良いエンジンはパワーやレスポンスが落ちます。燃料を薄くするしかないからです。エンジンでも環境基準をギリギリでクリアするように設計されている150馬力のエンジンと、10年後の環境基準を余裕をもってクリアできるように設計されている130馬力のエンジンがあって、どっちが技術的に優れてます?と問われたら、パワーは劣っているけれども環境適合型エンジンの方が技術的には上ということも十分あり得る。

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(寒すぎて最近全く出番のない愛車。冬場にコイツで走るのはまさに荒行。バッテリーが上がらないよう充電中です。)

環境に配慮しながらパワーを出そうとすれば有害物質を除去する触媒などのコストが上がる。にもかかわらずコストを下げようとすれば他の部分が安普請になり耐久性が落ちる。燃費、環境、パワー、コスト、耐久性。どこを落としどころに持ってくるか?すべてはバランスの上に構築されていて、あちらをたてればこちらがたたない。だから機械ものは一筋縄じゃいかないし面白いんです。

「環境にやさしい」という面を突き詰めると今後のバイクは昔のキャブ車のようなハイパワーは望めません。開ければズガーンと加速するような設定は開けた瞬間ガスをダバダバと出し有害物質をドーンと吐いているわけで、時代と共にそんな設定は許されなくなってくる。でもそれによるパワーダウンはバイクの技術が落ちたからではないんです。地球環境のために昔では到底考えつかないような制御技術を駆使しながら乾いた雑巾を絞るようにパワーを絞り出している、そういう時代になってるのです。

よく「昔のキャブ車はパワーがあった。キャブ車の方が楽しい」という意見があり、「インジェクションは非力」などと言われますが、それはある意味正しくて、キャブ車の頃はあまり余計なことは考えなくて良かったからあるがままに加速感を追い求めれば良かったわけです。今のバイクにパワーや魂を揺さぶるような荒っぽさがなくなってるのはインジェクションが悪いのではなく今の車両が環境規制で濃い燃料を吹けないだけなのです。

環境や騒音などの各種規制を全く考慮に入れなければ、インジェクションは昔のキャブ車以上にパワーを絞り出すことが可能です。しかし、プロレスで凶器攻撃や両者リングアウトのグレー裁定がほとんど廃れたようように、今求められているのはより高度な技を駆使した「クリーン・ファイト」なんですねぇ。

ダイノジェットを購入した時、ハーレーの日本仕様のインジェクション設定をパワービジョンで覗いたら、数値が理論空燃費「14.7」のオンパレード。とんでもなく薄い数値が並んでて、「うおおぉおー、きつい!薄い!!これでよく動いてんな~・・・・環境って甘くないのね・・」と、思わず呆然としてしてしまいました。