ハーレーが2020年以降に展開するという2モデルを発表しました。「Bronx」と「Pan America」です。今回はこの2モデルについて、少し真面目に私見的感想を述べていきたいと思います。

まず、最初に言っておきたいのは、「これらのモデルの登場はハーレーが企業規模を維持するにあたり、ほぼ予想できていたものだった」ということです。以前私が「ハーレー販売不振に関する一考察」というブログで検証したとおり、ハーレーは「アメリカンクルーザーのラインナップだけではジリ貧になりかねない」状況です。

Bronx
Bronx-streetfighter
(こちらがBronx。ハーレーのホームページから転載。水冷狭角60°Vツインのストリートファイター。コンパクトで造形も美しく、素敵なデザインだと思います。)


販売台数が拡大していけば、顧客の数も増えていく。顧客が増えていけば、ブランドが抱えている顧客の嗜好も多種多様になる。今までもハーレーはV-RODやストリート750等の水冷のエンジンを投入し、販売の軸を増やそうとしてきましたが、正直うまくいっていない。

しょうがないので、ハーレーは顧客の拡散する嗜好や欲求に対して「カスタム」という領域で対応していました。しかし、どんなにカスタムしたところで、「アメリカンクルーザーをアドベンチャーにすることはできない」ですから、クルーザーというカテゴリーを求めていない顧客はハーレーを購入することはあり得なかったわけです。

消費傾向なんて、コダワリ系か浮気系かのどっちかなわけで、一昔前のハーレーは信者ともいえる岩盤顧客層相手に細々と商売しておりましたが、現在ではハーレーは大型ではありふれたバイクとなり、購入者はハーレーにことさらこだわる客ばかりではなくなってます。

そのような事情の中、拡大するディーラー網や企業スケールを長期的に維持していくためには、現状のクルーザー全ツッパでは限界があるという結論に到達するのは時間の問題であったといえるでしょう。

panameriba1
pan america
(こちらがPan America。これまた個人的には好きなデザイン。今回の2モデルはエンジン周りを隙なくミッシリ詰めこんで作ったという凝縮感がいいんですが、見るからに整備性ヤバそうですねぇ・・。60°バンクのVツインで隙間もないのでどう考えてもメカニック泣かせ。)


天才的なカリスマ技術者がヒラメキやセンスでバイクを作ってるような規模では、まず作りたい商品がメインにあって、それが顧客に刺さってバカ売れするという構図なので、商品重視の経営です。しかし、成功を収め、経営規模が拡大した後は、経営戦略と商品開発が一体化し、商品開発が経営事情に引っ張られるようになっていく。長く間延びした戦線のあちこちからいろんな意見が聞こえるようになり、多くの意見を反映せざるを得ない状況になると、関係者がそれなりに納得できる落としどころに商品コンセプトが帰結してしまうわけです。

だから私のようなアホの子でも、「理詰めでその後の展開を一定程度予想できる」ようになってしまうわけですね。

近年ハーレーの販売数は減少しつつあり、利益も順調に減少中。満を持して投入したミルウォーキーエイトへのモデルチェンジも戦線拡大のカンフル剤になってないわけですから、既存のクルーザーモデルだけではこの苦境は打開できないことは明白です。この場合、私みたいな根性無しは、経営規模を徹底的に縮小する選択をするわけですが、ハーレーの経営陣としては「無策で撤退」という決断をするわけにもいかず、まずは勝負手を打って総合メーカーへの脱皮を図ってみるしかない。

そんな中でのBronxとPan Americaの投入は経営方針としては、「珍しくもないありふれた決断」だったと思うわけです。だって、私が経営者でも、「現状で成長戦略を策定しろ!!」って命じられたら似たようなもんになりますから。

現在アメリカと諸外国は関税の問題でもめてます。製造コストなどで流動的な要素が多すぎて、どんな勝負手を打っても成功するかは予測できないってことになると、一番無難で安全な方法を選択するしかない。

つまり成功したメーカーの後追いです。(←パクリともいう)

で、ハーレーの経営陣が他メーカーを見渡したときに、総合メーカーに脱皮したメーカーの中で一番真似しやすいのがドカティだと思うわけですよ。


(Bronxの動画。かなり走りそうです。あとはエンジンの味をどう作り込んでくるか?上まで回り、かつ公道使用域で気持ちよいエンジンだと最高ですが。)

私だったら、V型2気筒エンジンをアイデンティティとしつつ、Lツインエンジン系スポーツモデルからモンスター、ディアベル、ムルティストラーダ等の投入で総合メーカーに脱皮していったドカティの経営戦略をなぞることを考えますね。

商品企画もドカティの成功例があるので、「これは経営上の冒険ではなく必然なのであぁぁる!!」と経営会議でもアジりやすいし、将来見通しにも説得力がある。今回の発表された2モデルはプロトタイプの状態でとってもデザインコンシャスですが、これもドカティの影響を強く受けていると思ってます。

私自身はハーレーがストリートファイターやアドベンチャーを投入するのは別に悪いことだとは思わないし、「フッ・・これも世の流れか・・」などと第三者目線で見てたりするわけですが、今回の新規モデル投入は「失敗できない大勝負」になるのは間違いない。

今までのハーレーは、スポスタ、ビックツイン系以外のモデルはイマイチ成功していない。これまでは主力のビックツインが好調でしたので、「まぁいいか~」で終わっていたかもしれませんが、好調の時に将来を見据えて派生モデルを育てておかなかったのが今になって響いてる。

屋台骨を支えてきた主力モデルの販売に陰りが出てきて収益が落ち、尻に火がついている状態ってのは本来なら経営コストの削減で対処するのが一番堅実であるところ、矢継ぎ早のラインナップ拡大路線はリスクが極大なんです。

電動バイクのライブワイアーはコンセプトモデルみたいなもんなのでこれは当面話題作りにしかならないとして、今回発表された「Bronx」「Pan America」はガチの拡販モデルとして大きな使命を背負っているはずです。

このどちらもコケちゃうと世間的に「ハーレーはクルーザー以外は作れねぇメーカー。」というイメージが定着してしまうし、経営上もこれ以上打つ手がなくなっちゃう。開発費によって自己資本もなくなり、立ち直れないくらいのダメージが予想されます。

だから、この2モデルはとにかく販売面で成功させて、クルーザーに並ぶ販売の軸に育てないといけない。来年以降の販売なのに今からガンガンプロモーションしてるのも、とにかく「これを絶対に成功させないと」という危機感の表れでしょう。

ただ、これからハーレーが乗り入れようとしているこの分野には個性的で実績のある強力なライバル達が多数存在し、ハーレーは完全に新参者です。つまり、これまで築いてきたブランドイメージはまったく通用しないわけで、他モデルにない個性と新しい価値を提供しなきゃいけない。


(こちらPan Americaの動画。これまた面白そう。これハーレーだと思うから違和感あるんであって、新興メーカーのモデルだと思えば、かなりイケてて魅力的です。)

ハーレーの強みっていうのは、「公道の制限速度内で楽しめること」「振動を受け止めるため、部品の強度やパーツ質感が高く、重量に見合う良いもの感があること」「古き良きエンジンの味わいが人の感性にあっていること」あたりだと思いますが、この2モデルでこれを実現することはなかなか難しい。

搭載されるのは水冷60°のVツイン(V-RODで実績がありますね。)らしいですが、ハーレーが動的アイデンティティとして、乗り味をどういう風に作り込んでくるか?っていうのが一つの焦点だと思います。プロトタイプ見るとBronxはキャスター角立ってるし、マスも集中してそうですが、ピーキーで変態バイクと称されたビューエルの二の舞になってはまずい。

また、デザインは個人的には好きですけど、ハーレーのホームページの写真はともかく、モーターショーとかの紹介写真や動画見る限りちょっと質感が足りないと思う。ただ、こんなもんはエンジン周りに高級感のある塗装をして、付属パーツをちょっと良いものに変えればあっという間に改善するので、そこら辺を手を抜かずにやれば外見はかなりいい。後は価格設定でしょう。

私が経営者なら思いっきり戦略的な価格で出します。商売ってのは最後はシェアという名の陣取りゲームです。勝負どきには血を流してでも絶対に勝たなきゃならない。ハーレーがクルーザーメーカーから脱皮し、未来に向けて羽ばたくためには、まずはスポーツバイクの基本ともいえるBronxで大きく敵陣地に切り込みストファイ市場の3割くらいを食い荒らすくらいの圧倒的なインパクトが必要だと思う。

成功するかしないかではなく、絶対に成功させるという意気込みや執念を商品プロダクトと販売面の両方から感じさせることができるか?背水の陣で投入された今回の2モデルには、そこが問われているような気がしますね。